【建物と土地への抵当権設定と車庫建築時期が異なるケースの法定地上権】
1 複数の抵当権と法定地上権の範囲が絡み合った判例
2 建物と土地への抵当権設定と車庫建築
3 建物の抵当権実行と法定地上権の成否
4 土地の抵当権実行と法定地上権の成否
1 複数の抵当権と法定地上権の範囲が絡み合った判例
法定地上権の成立するかどうかの判断は,複数の抵当権があると基準とする時点が複雑になりがちです。
また,法定地上権が成立する場合,成立する範囲がはっきりしないというケースもあります。
最高裁の判例に,法定地上権の成立の判断の基準時点と成立する範囲の判断が絡み合っているものがあります。
本記事では,この判例の内容を紹介します。
2 建物と土地への抵当権設定と車庫建築
建物と土地に,別の抵当権が設定され,その間に車庫の建築が行われました。
これが,後で,複雑な解釈が必要な状況となるのです。
なお,実際には土地へ設定された担保権は根抵当権です。
本記事で説明する内容には支障がないので,便宜的に『抵当権』として表記します。
<建物と土地への抵当権設定と車庫建築>
あ 建物への抵当権設定
建物にAの抵当権を設定した
い 車庫の建築
建物と一体をなすものとして車庫を建築した
増築に伴う登記がなされていなかった
う 土地への抵当権設定
土地にBの(根)抵当権を設定した
※最高裁平成11年4月23日
3 建物の抵当権実行と法定地上権の成否
最初に建物の抵当権が実行されました。
基本的な解釈を忠実にあてはめると,車庫については法定地上権が成立しないことになります。
<建物の抵当権実行と法定地上権の成否>
あ 抵当権の実行
Aが建物の抵当権を実行した
建物と車庫をCが買い受けた
い 法定地上権の成否
Aの抵当権設定時点において
車庫は存在していなかった
=物理的要件を満たしていない
詳しくはこちら|法定地上権の成立要件には物理的要件や所有者要件がある
→法定地上権は成立しない
※最高裁平成11年4月23日
う 登記の有無(参考)
車庫に登記がなされていなかったことについて
→法定地上権の判断には影響しない
詳しくはこちら|法定地上権の物理的要件(設定時に建物が存在すること)の解釈論
詳しくはこちら|法定地上権の所有者要件(設定時に土地・建物が同一所有)の解釈論
4 土地の抵当権実行と法定地上権の成否
建物の抵当権実行(前記)の後に,土地の抵当権が実行されました。
土地の抵当権を基準にすると,車庫について法定地上権が成立します。
<土地の抵当権実行と法定地上権の成否>
あ 抵当権の実行
Bが抵当権を実行した
土地をDが買い受けた
い 法定地上権の成否
土地の抵当権設定時点において
車庫は存在していた
土地と車庫の所有者は同一であった
=物理的要件・所有者要件を満たす
詳しくはこちら|法定地上権の成立要件には物理的要件や所有者要件がある
→法定地上権は成立する
う 法定地上権の範囲
車庫の利用に必要な範囲について法定地上権が成立する
詳しくはこちら|法定地上権の成立する範囲には庭や通路も含まれる
※最高裁平成11年4月23日
結局,この最高裁判例は,過去の判例で確立されたいろいろな解釈を忠実に適用したといえます。
ただ,事案が複雑なので,法的に分析(分解)するところが高度なのです。