【換価処分(中間処分)の申立権の有無と決定できる時期】
1 換価処分(中間処分)の申立権の有無と決定できる時期
2 換価処分は中間処分の性質であり申立はできない
3 調停手続における換価処分の可否
4 即時抗告審における換価処分の可否
1 換価処分(中間処分)の申立権の有無と決定できる時期
遺産分割の審判に伴い,裁判所が遺産の(主に)一部を売却することを決めることができます(換価処分)。
詳しくはこちら|遺産分割審判の中間処分としての換価処分の要件と手続の全体像
本記事では,換価処分には当事者からの申立権がないことや,換価処分の裁判ができる時期(状況)について説明します。
2 換価処分は中間処分の性質であり申立はできない
換価処分は中間処分という法的性質があります。
このような事情から,申立を認める規定は作られていません。
つまり,裁判所の職権により判断するのです。
実務では,相続人から裁判所に職権発動を促すという意味で書面を提出することがあります。
<換価処分の性質と申立の可否>
あ 換価処分の法的性質
遺産分割の審判における換価処分は
審判事件の手続内で中間処分として行われる
『審判以外の裁判』と位置づけられる
い 申立の可否
換価処分は職権によってのみすることができる
=相続人が申し立てることはできない
※松川正毅ほか編『新基本法コンメンタール 人事訴訟法・家事事件手続法』日本評論社2013年p442
う 実務的な相続人からのアクション
裁判所に対して職権発動を促すことがある
上申書や意見書として書面を提出する
3 調停手続における換価処分の可否
換価処分は遺産の一部だけについて遺産分割を先行するという非常に特殊なものです。
そのため,遺産分割の審判に伴って行われる以外ではできないことになっています。
具体的には,調停において相続人全員が換価処分をするということに合意しても換価処分はできません。
なお,遺産の一部に限定した遺産分割として合意することは可能です。その場合でも形式的競売はできません。
<調停手続における換価処分の可否>
あ 調停手続における換価処分の可否
換価処分は強制的に換価をする処分である
→合意によって行うことは相当ではない
→調停手続ではできない
※深沢利一著『民事執行の実務(中) 補訂版』新日本法規出版2007年p1111
い 遺産の一部の遺産分割(参考)
遺産の一部に限定した遺産分割の合意は可能である
詳しくはこちら|遺産の一部(欠落あり)の遺産分割はその後に第2次分割が必要になる
う 調停による分割と形式的競売(参考)
換価分割の調停で形式的競売を利用できる傾向がある
主に共有物分割を前提とする解釈である
詳しくはこちら|和解(私文書・和解調書・調停調書)による形式的競売の可否
4 即時抗告審における換価処分の可否
換価処分は遺産分割の審判に伴うものだけに限定されています(前記)。
そこで,遺産分割審判の即時抗告審の裁判所は換価処分の裁判をすることはできません。
<即時抗告審における換価処分の可否>
あ 即時抗告審における換価処分の可否
遺産分割審判の即時抗告審において
→換価処分はできない
い 即時抗告審における裁判所の対応
換価処分が相当であると判断した場合
→高等裁判所は原裁判を取消して差し戻すことになる
※深沢利一著『民事執行の実務(中) 補訂版』新日本法規出版2007年p1111
本記事では,遺産分割における換価処分(中間処分)に関して説明しました。
実際には,個別的事情により,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺産(相続)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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