【乗合サービス(一般乗合旅客自動車運送事業)の運賃・料金の規制】
1 乗合サービスの運賃の規制
2 乗合サービスの運賃・料金の規制の全体像
3 路線不定期運行・区域運行サービスの運賃・料金
4 運賃の事前届出制となる路線定期運行サービス
5 地域的合意によるコミュニティバスの運賃規制の緩和
6 地域公共交通会議による合意の形成
7 運賃・料金の変更命令
1 乗合サービスの運賃の規制
道路運送法では,いろいろな自動車での運送サービスを規制しています。
運送サービスの分類の中に一般旅客自動車運送事業があり,その中の1つの種類として一般乗合旅客自動車運送事業(乗合サービス)があります。
詳しくはこちら|一般旅客自動車運送事業の規制の全体像
平成18年の法改正で,乗合サービスについてのルールが整備されました。
コミュニティバスのような新しい形態のサービスに適合するようなルールが作られたのです。
乗合サービスに関する規制の整備の1つが運賃・料金に関するものです。
本記事ではこれについて説明します。
2 乗合サービスの運賃・料金の規制の全体像
乗合サービス一般について,事業者が金額の上限を設定し,これについて認可を得ることが必要となります。
しかし,新しく登場したサービスではこの上限認可制はやや過重な規制といえます。
そこで,道路運送法で例外が作られました。
<乗合サービスの運賃・料金の規制の全体像>
あ 公共性と独占の状況(背景)
地域住民の日常生活との関連が極めて密接である
=公共性が高い事業である
事実上の地域独占状態がある
い 認可制(原則)
運賃・料金の上限について認可が必要である
う 届出制(例外)
利用者の利益に及ぼす影響が比較的小さいサービスについて
例=利用者の選択度合いが高い
→事前届出制とする
※道路運送法9条1項
え 事前届出制とするサービスの典型例
空港と市街地を結ぶ乗合タクシー
※国土交通省自動車交通局旅客課監『Q&A改正道路運送法の解説』ぎょうせい2006年p51
3 路線不定期運行・区域運行サービスの運賃・料金
サービス料金(運賃)の上限認可制の例外の内容も規定されています。
まず,乗合サービスのうち路線不定期運行と区域運行のサービスはすべて例外に該当します。
つまり,上限認可制は適用されず,届出で足りるということになります。
<路線不定期運行・区域運行サービスの運賃・料金>
路線不定期運行・区域運行サービスの運賃について
『旅客の利益に及ぼす影響が比較的小さい』に該当する
→事前届出制が適用される
※道路運送法施行規則10条1項2号,3号
4 運賃の事前届出制となる路線定期運行サービス
乗合サービスのうち路線定期運行には,古くからの路線バスなどが該当します。
路線バスは,運賃の規制は強い方が適しています。つまり,上限認可制が適切です。
しかし路線定期運行には,従来型の路線バスとは大きく性格・実情が異なるサービスが登場しています。
具体的には,定期観光バスや長距離バスや臨時の運送サービスです。これらは従来型路線バスのような住民の日常の足という性格がありません。
そこで,規制は緩和され,届出で足りることとなっています。
<運賃の事前届出制となる路線定期運行サービス>
あ 例外的な事前届出制
路線定期運行のうち『い〜え』に該当するサービスについて
→『旅客の利益に及ぼす影響が比較的小さい運賃』に該当する
→上限認可制ではなく事前届出制が適用される
い 定期観光運送
定期的に運行する自動車により観光を目的とする乗合旅客を専ら運送するサービス
う 長距離急行運送
専ら1の市町村・特別区の区域を超え,かつ,その長さが概ね50キロメートル以上の路線において,停車する停留所を限定して運行する自動車により乗合旅客を運送するサービス
え 臨時運送
一時的な需要のために地域・期間を限定して運送するサービス
※道路運送法施行規則10条1項1号
※国土交通省自動車交通局旅客課監『Q&A改正道路運送法の解説』ぎょうせい2006年p52
5 地域的合意によるコミュニティバスの運賃規制の緩和
乗合サービスの新しい形態として,いわゆるコミュニティバスがあります。
具体的には,地域のニーズに対応してサービスが作られたというようなものです。
地域のコミュニティのニーズや合意があることから,運賃規制は緩和されることになりました。
運賃についての上限認可制は適用されず,届出で足りるのです。
<地域的合意によるコミュニティバスの運賃規制の緩和>
あ 背景
地域のニーズに応じて行う乗合旅客の運送について
例=コミュニティバス
地方自治体を中心に住民なども参画した協議の場において予め内容が議論されている
その結果に基づいて遂行されることが実態として多い
い 地域的合意による運賃規制の緩和
一般乗合旅客自動車運送事業について
『う・え』の両方に該当する場合
→サービスの運賃・料金の上限の認可は不要となる
事前届出で足りる
う サービスの目的
地域における需要に応じ当該地域の住民の生活に必要な旅客輸送の確保その他の旅客の利便の増進を図るために乗合旅客の運送を行う
え 運賃についての合意(※1)
地方公共団体,サービス事業者,住民などが
運送の運賃について合意している(後記※2)
※道路運送法9条4項
6 地域公共交通会議による合意の形成
コミュニティバスなどの運賃の規制が緩和される要件の1つが地域の合意です(前記)。
これだけでは曖昧です。当然,具体的に地域の合意といえるプロセスが規定されています。
一定の関係者・機関が参加する地域公共交通会議の協議が前提条件となるのです。
<地域公共交通会議による合意の形成(※2)>
あ 具体的な合意の形態
運送の運賃についての合意(前記※1)とは
地域公共交通会議or協議会において
協議がととのっていることである
※道路運送法施行規則9条の2
い 地域公共交通会議の主宰者
市町村長・特別区の区長・都道府県知事
※道路運送法施行規則9条の2
う 原則的な構成員
ア 主催者(あ)イ 一般乗合旅客自動車運送事業者・その組織する団体ウ 住民or旅客エ 地方運輸局長オ 一般旅客自動車運送事業者の事業用自動車の運転者が組織する団体 ※道路運送法施行規則9条の3第1項
7 運賃・料金の変更命令
乗合サービスの運賃については,以上のように,サービス内容によって違う規制が適用されます。
これらの規制はサービスの開始時点についてのチェックといえます。
その後,運賃が適切ではないという状況になった場合は,行政が運賃の変更を命じることができます。
<運賃・料金の変更命令>
あ 変更命令
一般乗合旅客自動車運送事業の運賃・料金について
『い』のいずれかに該当する場合
→国土交通大臣は,サービス事業者に対して
運賃or料金を変更すべきことを命じることができる
い 変更事由
ア 社会的経済的事情に照らして著しく不適切であり,旅客の利益を阻害するおそれがあるイ 特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであるウ 他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすおそれがあるものである ※道路運送法9条6項