【借地の無償返還で課税上『借地権の価値なし』と認める具体例】
1 借地の無償返還で課税されない例外の具体例
2 借地の無償返還で『借地権の価値なし』と認める事案
3 国税庁は課税しないという見解
4 私法と課税の扱いのズレ
1 借地の無償返還で課税されない例外の具体例
借地の明渡において,明渡料(立退料)が払われないレアケースもあります。
このようなケースでは,課税上は,借地権相当の価値が無償で移転したと考えます。
つまり贈与税や法人税の課税につながるのです。
しかし,例外的に『借地権の価値がない』という事情があれば,もともと無償であったのだから,価値の移転はないという考えになります。
つまり贈与税や法人税の課税はないということになります。
詳しくはこちら|明渡料なしでの借地の明渡(借地の無償返還)における課税
このような借地の無償返還で課税しない具体例が国税庁のウェブサイトで紹介されています。
本記事では,この事案を説明します。
2 借地の無償返還で『借地権の価値なし』と認める事案
事案の内容を紹介します。
<借地の無償返還で『借地権の価値なし』と認める事案>
あ 土地の利用に関する契約関係
土地の所有者(賃貸人)=個人B
賃借人=法人A
A社はBの所有する土地を20年前から賃借し,その土地に木造の営業所を建設し業務を継続してきました。
当初契約における借地期間は10年間ですが,更新されています。
権利金及び更新料の授受はありません。
本年6月,A社は,建物の老朽化等によりその建物で営業することができなくなったため,新たに営業所を賃借することとして当該契約を解除しました。
い 賃貸借契約の条項
土地賃貸借契約を基とする土地賃貸借料改定契約において,契約の解除に関して次の条項が合意された。
『賃借人において,他の場所に新営業所の建設を完了した場合,賃借人は業務開始前6か月の予告をもって本契約を解約することを得る』
う 権利金授受の慣行
現在Bの所有する土地のある地域において
土地の賃借に当たっては権利金を授受する取引上の慣行がある
外部サイト|国税庁|質疑応答|借地を無償で返還した場合
3 国税庁は課税しないという見解
前記の事案について,国税庁は,課税しないという見解を示しています。
<国税庁の見解>
立退料等の金銭の授受がない場合であっても,契約の解除条項に従って解除するものであることから,賃借人及び賃貸人のいずれも,課税関係は生じません。
※法人税基本通達13−1−14(3)
外部サイト|国税庁|質疑応答|借地を無償で返還した場合
このコメントはちょっと分かりにくいのですが,指摘している通達のナンバーは『借地権の価値がない』というケースのものです。
詳しくはこちら|明渡料なしでの借地の明渡(借地の無償返還)における課税
4 私法と課税の扱いのズレ
ところで,私法では,つまり民事訴訟では,建物所有目的の土地賃貸借なので,一般的な借地として認定される可能性も十分にあると思われます。
詳しくはこちら|建物所有目的の土地賃貸借は『借地』として借地借家法が適用される
詳しくはこちら|借地借家法が適用される建物所有目的は主従(比重)で判断する
本来は私法と課税の扱いは一致しているべきとされています。
詳しくはこちら|私法の法律関係を前提として課税する(私法関係準拠主義)
しかし,私法と税務で扱いにズレが生じることもあり得るのです。その分かりやすい具体例として前記の事案(国税庁の見解)を紹介しました。
このようなズレは,一般論として,不合理な方向にも,ラッキー(利益)な方向にも働くことがあります。