【境界損壊罪(条文規定と理論や解釈と具体例)】
1 境界損壊罪の条文規定
2 『土地の境界』の解釈
3 『境界標』の解釈
4 境界標の変動
5 境界の識別不能
6 境界損壊罪と他の罪との関係
1 境界損壊罪の条文規定
境界損壊罪は,土地の境界や越境の民事的トラブルで関係することがあります。
詳しくはこちら|土地境界のトラブルの解決手続の種類や方法の全体像
本記事では,境界損壊罪に関する規定や解釈と具体例を説明します。
まず,境界損壊罪の条文に定められている構成要件と法定刑をまとめます。
<境界損壊罪の条文規定>
あ 構成要件(※1)
境界標を損壊し,移動し,若しくは除去し,又はその他の方法により,土地の境界を認識することができないようにした
い 法定刑
懲役5年以下or罰金50万円以下
2 『土地の境界』の解釈
境界損壊罪の構成要件の中に『土地の境界が認識できなくなること』があります(前記)。
この『土地の境界』の解釈は,民法上の解釈とは多少違います
<『土地の境界』の解釈>
あ 『土地の境界』の意味
権利者を異にする土地の境界線である
い 『権利(者)』の意味
『あ』の中の『権利』について
所有権に限らない
地上権・抵当権・賃借権を含む
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p311
う 不明確な境界の扱い
当事者間で法的に争いがある場合でも
現に事実上存在するものであれば足りる
※東京高裁昭和61年3月31日
3 『境界標』の解釈
境界損壊罪が成立するのは『境界標』に対する損壊などの一定の行為をしたときです。
この大前提となる『境界標』は,測量などを行って設置した,本格的な境界杭だけを意味するわけではありません。
境界を判断するヒントになるものを幅広く含みます。
<『境界標』の解釈>
あ 『境界標』の基本的な意味
土地の境界を示す標識である
い 『境界標』の典型例
柱,杭など
う 自然物
境界を示す自然物も含む
例=自然石,立木
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p311
4 境界標の変動
境界損壊罪が成立するのは,境界標(前記)について,損壊などの一定の行為をしたときです。
境界標に触れない(変動させない)で,別の方法で境界が分かりにくくしたという行為は,境界損壊罪に該当しません。
<境界標の変動>
あ 境界標の変動の必要性
境界損壊罪が成立するためには
境界標の変動が必要である(前記※1)
い 境界標の変動がないケースの扱い
境界標自体の変動がない場合
例;境界を示した図面を破棄する行為
→境界損壊罪には該当しない
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p311
5 境界の識別不能
境界損壊罪の構成要件の中に,境界標を変動させる行為によって結果的に境界が識別不能になった,というものがあります。
境界を損壊したも,境界の識別には問題がないというケースでは境界損壊罪は成立しません。もちろん,一般的な器物の損壊として,器物損壊罪は成立します。
<境界の識別不能>
あ 境界の識別不能の必要性
境界損壊罪が成立するためには
土地の境界を事実上認識できなくすることが必要である(前記※1)
い 識別可能なケースの扱い
境界標を壊しても
まだ境界が認識できれる場合
→境界損壊罪は成立しない
器物損壊罪は成立する
※最高裁昭和43年6月28日
6 境界損壊罪と他の罪との関係
実際には,境界損壊罪と同時に他の罪も成立することがよくあります。
複数の罪の関係をまとめます。
<境界損壊罪と他の罪との関係>
あ 境界損壊罪と器物損壊罪
境界損壊罪と器物損壊罪の両方に該当する場合
→観念的競合となる
※東京高裁昭和41年7月19日
い 境界損壊罪と不動産侵奪罪
境界損壊罪と不動産侵奪罪の両方に該当する場合
→牽連犯or観念的競合となる
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p180,311