【所有権確認訴訟と境界確定訴訟の比較と請求の併合・訴えの変更】
1 所有権確認訴訟と境界確定訴訟の比較
2 所有権確認訴訟と境界確定訴訟の比較(まとめ)
3 訴えの併合提起(請求の併合)
4 訴えの併合提起に適した状況
5 境界確定訴訟の追加的変更の典型的状況
6 所有権確認訴訟への交換的変更の典型的状況
1 所有権確認訴訟と境界確定訴訟の比較
境界のトラブルを解決するための訴訟としては,主に所有権確認訴訟と境界確定訴訟があります。
詳しくはこちら|土地境界のトラブルの解決手続の種類や方法の全体像
本記事では,この2つの訴訟の違いや実際に選択したり組み合わせたりする方法について説明します。
2 所有権確認訴訟と境界確定訴訟の比較(まとめ)
所有権確認訴訟と境界確定訴訟の2つには細かい違いがたくさんあります。
最初に,細かい違いの項目(結論)だけをまとめておきます。
<所有権確認訴訟と境界確定訴訟の比較(まとめ)>
比較項目 | 所有権確認訴訟 | 境界確定訴訟 |
最終判断の対象 | 所有権が及ぶ範囲 | 筆と筆の境(筆界) |
訴訟の性質 | 民事訴訟 | 非訟(形式的形成訴訟) |
当事者 | (隣接する土地の)所有者 | 隣接地の所有者 |
合意・和解(※2) | 可能 | 不可能 |
認諾・請求の放棄 | 可能 | 不可能 |
原告の請求の特定 | 必要 | 不要 |
反訴提起 | (現実的に)必要 | 不可能 |
控訴審の不利益変更禁止 | 適用あり | 適用なし |
真偽不明の際の結論(※1) | 請求棄却 | 判決 |
職権証拠調べ | 不可能 | 可能(異説あり) |
自白の拘束力 | あり | なし |
判決の第三者効力 | なし | 及ぶ |
このような違いのうち,実務で重要な事項について,以下説明します。
3 訴えの併合提起(請求の併合)
所有権確認訴訟と境界確定訴訟を組み合わせる方法にはいろいろなものがあります。
この2つの訴訟は,専門用語で請求と呼びます。2つの請求をセットにすることを請求の併合と呼びます。
2つの訴訟をセットで申し立てることを訴えの併合提起と呼びます。
細かい理論は複雑ですが,結論としては,併合提起は可能です。
<訴えの併合提起(請求の併合)>
あ 訴えの法的性質(前提)
所有権確認訴訟 | 一般民事事件 |
筆界特定訴訟 | 本質は非訟事件,手続は民事訴訟 |
詳しくはこちら|土地境界のトラブルの原因と解決(境界特定)の全体像
い 形式論
同種の訴訟手続ではない
→請求の併合はできない
※民事訴訟法136条
う 実務的解釈
性格の違う訴訟ではあるが請求の併合は可能である
※寳金敏明著『境界の理論と実務』日本加除出版2009年p506
4 訴えの併合提起に適した状況
所有権確認訴訟と境界確定訴訟の併合提起自体は可能です(前記)。
しかし,必ず併合提起が最適であるというわけではありません。
一般論としては境界確定訴訟だけで足ります。
これだけでは後から所有権の境の意見の相違(トラブル)が残る可能性がある状況では所有権確認訴訟も最初から併合しておくとベターなのです。
<訴えの併合提起に適した状況>
あ 典型的事情
所有地の一部が時効取得されている
しかしその範囲に争いがある
さらに筆界が明らかではない
→一部時効取得を原因とする移転登記ができない
い 訴えの併合提起
公法上の境界と所有権境の両方の判断が確実に必要である
→境界確定訴訟と所有権確認訴訟の併合提起が適している
※寳金敏明著『境界の理論と実務』日本加除出版2009年p507
う 所有権移転登記請求の併合
『い』の2つの請求の併合に加えて
所有権移転登記請求も併合することもあり得る
例=明らかに越境している部分について取得時効が完成している
5 境界確定訴訟の追加的変更の典型的状況
所有権確認訴訟は証拠が不十分だと棄却となります(前記※1)。裁判所は所有権境を特定するという判断をしないままになります。
一方,境界確定訴訟は存在する証拠を前提に何らかの境界を特定します。
そこで,所有権確認訴訟で裁判所による特定がないまま終わることを回避する方法として,境界確定訴訟を追加するという手法があるのです。
<境界確定訴訟の追加的変更の典型的状況>
あ 典型的状況
所有権確認訴訟を提起した
証拠資料が不足している
請求が棄却されることが想定される状況になった
い 境界確定訴訟の追加
境界確定訴訟を追加する(訴えの追加的変更)
※寳金敏明著『境界の理論と実務』日本加除出版2009年p507
6 所有権確認訴訟への交換的変更の典型的状況
境界確定訴訟では,当事者が公法上の境界について和解することができません。
そこで,訴訟を所有権確認訴訟に切り替えます(訴えの交換的変更)。こうすることによって所有権境についての和解が可能となります。
なお,実務ではこれを簡略化して,切り替え(訴えの変更)をしないまま和解にするという方法がとられることが多いです。
<所有権確認訴訟への交換的変更の典型的状況>
あ 典型的状況
境界確定訴訟を提起した
和解が成立することが想定される状況になった
境界(公法上の筆界)についての和解はできない(前記※2)
い 所有権確認訴訟への交換
所有権確認訴訟を追加する
境界確定訴訟は(実質的に)取り下げる(訴えの交換的変更)
所有権境の和解はできる(前記※2)
う 実務的な変更をしない方法
実務では,訴えの変更をしないまま和解を成立させることも多い
詳しくはこちら|境界確定訴訟における合意(和解)の可否と方法
※寳金敏明著『境界の理論と実務』日本加除出版2009年p507