【境界の確定に関する処分禁止の仮処分はほぼできない】
1 境界の確定に関する処分禁止の仮処分
2 境界確定訴訟のための仮処分はできない
3 所有権確認請求のための仮処分はできない
4 移転登記請求のための仮処分はできない傾向
1 境界の確定に関する処分禁止の仮処分
隣地の所有者の間で,土地の境界について見解が対立することがあります。
いわゆる境界の紛争(トラブル)です。
最終的に境界確定訴訟で解決するケースが多いです。
詳しくはこちら|土地境界のトラブルの解決手続の種類や方法の全体像
この点,訴訟手続の完了までに相手(隣地所有者)が土地を第三者に譲渡すると,改めて第三者(新所有者)に対し提訴する必要が生じます。
最初に処分禁止の仮処分ができれば,このような不都合を回避できます。
本記事では,境界の確定に関する処分禁止の仮処分について説明します。
2 境界確定訴訟のための仮処分はできない
まず単純に,境界確定訴訟の前に処分禁止の仮処分を行う方法を考えます。
これは,境界確定訴訟の性質が,登記を移転する請求とは異なるので認められません。
<境界確定訴訟のための仮処分>
境界確定訴訟について
登記に関する本案の主文を観念する余地はない
→処分禁止の仮処分は認められない
※瀬木比呂志著『民事保全法 新訂版』日本評論社2014年p497
3 所有権確認請求のための仮処分はできない
実際の境界確定訴訟では,所有権確認という請求も併合することがあります。
所有権確認請求も登記の移転を請求するものではありません。そこで所有権確認のための処分禁止の仮処分も認められません。
<所有権確認請求のための仮処分>
あ 境界確定と所有権確認請求
境界確定訴訟において
実務では所有権確認請求も併合することがある
詳しくはこちら|所有権確認訴訟と境界確定訴訟の比較と請求の併合・訴えの変更
い 所有権確認請求のための仮処分
所有権確認請求について
本案の主文が登記請求権ではない
→本案が登記請求権ではない
→処分禁止の仮処分は認められない
※瀬木比呂志著『民事保全法 新訂版』日本評論社2014年p497,498
4 移転登記請求のための仮処分はできない傾向
所有権移転登記請求を保全するためであれば,処分禁止の仮処分の対象となります。
しかし,境界の確定を目的とするケースでは,移転登記の請求は認められないことが多いです。
結局このような請求の設定によって仮処分を行うことも通常はできません。
<所有権移転登記請求のための仮処分>
あ 境界確定と所有権移転登記請求
境界確定訴訟or(土地の)所有権確認請求訴訟において
『分筆の上で移転登記をする』請求を含めることが考えられる
→形式的には処分禁止の仮処分の対象となる
い 移転登記の必要性の傾向
通常は登記の修正としては地積更正や公図訂正で足りる
=所有権移転登記は不要であることが多い
→移転登記請求(あ)は合理性を欠く傾向が強い
う 仮処分の審査の傾向
『あ』の内容の仮処分について
被保全権利・保全の必要性の疎明が可能であることはまれである
=処分禁止の仮処分は発令されないことが多い
※瀬木比呂志著『民事保全法 新訂版』日本評論社2014年p497,498