【相続財産の中の預貯金の差押(平成28年判例の影響)】
1 相続財産の中の預貯金の差押
相続財産の中の預貯金を差し押さえるというケースはよくあります。
平成28年の最高裁判例で、相続における預貯金の扱いが変更されました。
詳しくはこちら|平成28年判例が預貯金を遺産分割の対象にした判例変更の理由
このことが、相続財産の中の預貯金の差押に影響を与えています。
本記事では、相続財産の中の預貯金の差押について説明します。
2 相続債権者による相続預貯金の差押
相続財産の中の預貯金の差押は大きく2つに分類できます。
最初に、被相続人の債権者(相続債権者)による差押について説明します。
このケースでは、特に問題なく預貯金の差押ができます。
平成28年判例による解釈の変更の影響を受けません。
なお、相続債権者が債権を回収する手段としては相続財産清算人(令和3年改正前の相続財産管理人)の選任や相続財産分離というものもあります。
相続債権者による相続預貯金の差押
あ 相続債権者による相続債権の差押
被相続人の債権者(相続債権者)は
遺産の中の預貯金債権を差し押さえることができる
相続人の遺産共有となっている債権の全体が対象である
い 他の債権回収方法
『あ』とは別の債権回収方法として『ア・イ』がある
ア 相続財産清算人の選任
詳しくはこちら|相続債権者による相続財産清算人の選任手続と換価・配当の流れ
イ 相続財産分離
詳しくはこちら|第1種相続財産分離|被相続人の債権者は『財産混在』を回避できる
3 相続人の債権者による相続預貯金の差押
次に、相続人の債権者が相続財産の中の預貯金を差し押さえるケースもあります。
これについては、平成28年判例による解釈の変更の影響を受けます。
以前よりも大幅に理論が複雑になりました。
相続人の債権者による相続預貯金の差押
あ 平成28年判例の前後の違い(参考)
平成28年判例の前は
預貯金債権は相続により当然分割として相続人に承継された
各相続人が通常の(単独の)債権を有する状態であった
現在は相続人が預貯金債権の準共有持分を有する状態となる
詳しくはこちら|相続財産の預貯金は平成28年判例で遺産共有=遺産分割必要となった
い 債権の準共有持分の差押
相続人の債権者は
預貯金債権の相続人の準共有持分を差し押さえることができる
う 実際の手続の不明点
民事執行法の手続が『ア・イ』のどちらかは明らかではない
ア 債権執行(民事執行法143条)イ その他財産権の執行(民事執行法167条)
もともと、相続財産の差押については、以上のように多くの手続を組み合わせるとか、複数の制度の関係を考慮するなど、ノウハウを要するものでした。
現在はより複雑になったといえます。
債権回収ではスピードが非常に重要です。
相続財産の差押を実際にお考えの方は、早めに法律相談をご利用くださることをお勧めします。
また、相続財産の差押を受ける(ことが想定される)相続人としても、対応によって結果に違いが出ることがあります。
相続人サイドの方も、やはり早めの法律相談をお勧めします。