【訴訟参加人と原告や被告との利害相反(弁護士の受任の利益相反)】
1 訴訟参加人と原告や被告との利害相反
2 民事訴訟法の訴訟参加と『相手方』の判断
3 参加人と被告の協力関係と利害相反(否定)
4 参加人と原告の協力関係と利害相反(否定)
5 交換的な参加+脱退と利害相反(否定)
6 参加後の離脱と元敵対当事者からの受任(利害相反否定)
7 参加人と原告の対立と利害相反(肯定)
8 原告と参加人の請求の並立と利害相反(肯定)
9 手形金譲受後の請求の並立と利害相反(肯定)
1 訴訟参加人と原告や被告との利害相反
依頼や法律相談を受けた案件については,弁護士がその相手方から依頼を受けることは禁止されます。
詳しくはこちら|協議と賛助や依頼の承諾による弁護士の受任の利益相反
実際には,受任が禁止される状況かどうかがはっきりしないケースもあります。
民事訴訟で訴訟参加があったケースがその1つです。
本記事では,訴訟参加人と原告や被告との利益(利害)相反について説明します。
条文解釈でいえば,各当事者が弁護士法25条1号の『相手方』に該当するかどうかということになります。
2 民事訴訟法の訴訟参加と『相手方』の判断
訴訟参加があったケースでは,参加人と原告や被告が『相手方』となる(弁護士の受任が制限される)かどうかは,実質的な利害関係で判断されます。
<民事訴訟法の訴訟参加と『相手方』の判断>
あ 実質的な利害関係あり
参加人と原告or被告の間に実質的な利害関係の対立がある場合
→『相手方』にあたる
※大判昭和7年6月18日
※大判昭和8年4月12日
※大判昭和15年12月24日
い 実質的な利害関係なし
参加人と原告or被告の間に実質的な利害関係の対立がない場合
→『相手方』にあたらない
実質的な利害関係というのは抽象的な基準です。
そこで,実際の事例について,判断された裁判例を,以下紹介します。
3 参加人と被告の協力関係と利害相反(否定)
参加人と被告が協力体制にあるケースでは,当然,この両者は相互に『相手方』とはいえません。
<参加人と被告の協力関係と利害相反(否定)>
あ 当事者
原告=A
被告=B
Bの訴訟代理人がCから依頼を受けた
Cが当事者参加をした
い 対立状況
BはCの主張事実を争わない
CはAのみを相手方とする
う 裁判所の判断
BとCの間に実質的な利害相反はない
→弁護士Xの受任は利益相反には該当しない
※大判昭和14年9月2日;旧弁護士法24条1号について
4 参加人と原告の協力関係と利害相反(否定)
参加人と原告が協力体制にあるケースもあります。やはりこの両者の関係は『相手方』にはなりません。
<参加人と原告の協力関係と利害相反(否定)>
あ 当事者
原告=A
被告=B
訴訟の目的である権利についてCは譲渡を受けた
Aの訴訟代理人がCから依頼を受けた
Cは訴訟参加をした
い 対立状況
AとCは権利の譲渡について共通の認識である(争いはない)
Cは参加申立において原告を相手方としていない
う 裁判所の判断
AとCの間に実質的な利害相反はない
→弁護士Xの受任は利益相反には該当しない
弁護士としての品位も害しない
※最高裁昭和37年4月20日
※大判昭和17年5月8日
5 交換的な参加+脱退と利害相反(否定)
訴訟参加により,参加人は新たに訴訟の当事者になります。
これと同時に原告が訴訟から脱退するケースがあります。
要するに,原告が入れ替わったような状況です。
当然,原告と参加人は実質的に対立しているわけではありません。利害関係は否定されます。
<交換的な参加+脱退と利害相反(否定)>
あ 当事者
原告=A
被告=B
Aの訴訟代理人がCから依頼を受けた
Cは訴訟参加をした
同時にAは訴訟から脱退した
い 裁判所の判断
AとCの間に実質的な利害相反はない
→弁護士Xの受任は利益相反に該当しない
※京都地裁昭和31年10月24日
6 参加後の離脱と元敵対当事者からの受任(利害相反否定)
訴訟参加の後に,元の当事者(原告や被告)が訴訟から脱退するケースはよくあります。
この状況で,弁護士が元敵対当事者から依頼を受任することがあります。
一般的に利害相反はないと判断されています。
<参加後の離脱と元敵対当事者からの受任(利害相反否定)>
あ 当事者
原告=A
被告=B
Aの訴訟代理人=弁護士X
Cは独立当事者参加をした
い 訴え(請求)の取下
AがBに対する請求を取り下げた
CがAに対する請求を取り下げた
→Aが訴訟を離脱した
う 弁護士の受任
弁護士XはAの訴訟代理人であった
弁護士Xは,新たにBから依頼を受け訴訟代理人となった
え 裁判所の判断
Bからの依頼を受けた段階では敵対当事者はCだけであった
弁護士XとCとの間には賛助・協議・受任の承諾などの関係はない
→利益相反に該当しない
※東京高裁昭和29年1月21日
この事案は訴訟参加があったケースですが,元敵対当事者からの依頼の受任のケースはこれ以外にもあります。
詳しくはこちら|協議と賛助や依頼の承諾による弁護士の受任の利益相反
7 参加人と原告の対立と利害相反(肯定)
権利の承継があったことを理由とする訴訟参加もよくあります。
権利の譲渡について,譲渡人と譲受人の認識が一致していれば,実質的な対立関係はありません(前記)。
逆に,譲渡について見解が対立する状況もあります。
訴訟の上では,原告と参加人の両方が同一の権利を主張(行使・請求)している状況です。
訴訟参加における相手方となっていれば,通常,実質的な利害の対立があります。
弁護士法25条1号の『相手方』として認められることになります。
<参加人と原告の対立と利害相反(肯定)>
あ 当事者
原告=A
被告=B
CはAから訴訟の対象である権利を譲り受けた
Aの訴訟代理人はCから依頼を受けた
い 対立状況
Cは,A・Bの両方を相手方として訴訟参加した
う 裁判所の判断
AとCは利害相反する関係にある
→弁護士Xの受任は利益相反に該当する
※福岡高裁昭和32年7月18日
※京都地裁昭和44年6月3日
8 原告と参加人の請求の並立と利害相反(肯定)
前記とほぼ同様の状況となったケースです。
参加人は原告と被告の両方を(訴訟参加の)相手方としていました。
当然,弁護士法25条1号の『相手方』にも該当すると判断されました。
<原告と参加人の請求の並立と利害相反(肯定)>
あ 当事者
原告=A
被告=B
訴訟の対象である権利をCが承継した
Aの訴訟代理人XはCから依頼を受けた
い 対立状況
CはAも相手方として当事者参加の申立をした
う 裁判所の判断
AとCは利害相反する関係にある
→弁護士Xの受任は利益相反に該当する
※東京地裁昭和31年8月10日
9 手形金譲受後の請求の並立と利害相反(肯定)
手形金債権の譲渡を主張して訴訟参加がなされたケースです。
原告と参加人が同一の債権を行使(主張)している状況です。
当然,実質的な利害の対立があると判断されました。
<手形金譲受後の請求の並立と利害相反(肯定)>
あ 当事者
手形金請求事件
原告=A
被告=B
Cは手形金債権を譲り受けた
Aの訴訟代理人XはCから依頼を受けた
Cは訴訟参加をした
い 対立状況
Aは自己の請求を維持している
う 裁判所の判断
AとCは利害相反する関係にある
→弁護士Xの受任は利益相反に該当する
※名古屋高裁昭和30年7月19日