【弁護士法73条の各要件(文言)の解釈(成立するかどうか)】
1 弁護士法73条の各要件の解釈
2 『権利』の意味と実例の傾向
3 『権利』の紛争性・事件性の要否
4 『訴訟,調停,和解その他の手段』の意味と解釈
5 『業とする』の意味と解釈
6 正当業務行為としての違法性阻却
7 弁護士法73条違反が判断された裁判例(概要)
1 弁護士法73条の各要件の解釈
弁護士法73条は,業としての権利の譲り受けと権利の実行を禁止しています。
詳しくはこちら|業としての権利の譲受と実行の禁止(弁護士法73条の全体像)
実際には,この規定に該当するかどうかがはっきりしない状況が多くあります。
そこで,弁護士法73条の要件の内容やその解釈がとても重要です。
本記事では,弁護士法73条の各要件の解釈について説明します。
2 『権利』の意味と実例の傾向
弁護士法73条で禁止される行為(の一部)は『権利』の譲り受けです。
ここでの『権利』とは特に限定なく,あらゆる権利が含まれます。
典型例は債権(譲渡)ですが,それ以外の不動産やゴルフ会員権もありえます。
<『権利』の意味と実例の傾向>
あ 『権利』の解釈
弁護士法73条の『権利』とは
債権のみならず物権その他いかなる権利をも含む
※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p642
い 実例と傾向
ア 債権の譲受に伴う取立目的の権利実行
実例の多くはこの類型である
イ 賃借権ウ 所有権エ ゴルフ会員権
3 『権利』の紛争性・事件性の要否
譲り受ける『権利』について,紛争性が必要かどうかという問題もあります。
これについては必要,不要の両方の見解があります。
ただし,弁護士法73に該当するのは,権利の譲受の後,権利の実行(行使)があることが前提となっています。
その意味では,実際に一定の紛争といえるような状況でないと結果的に弁護士法73条に該当しないといえます。
<『権利』の紛争性・事件性の要否>
あ 条文規定
弁護士法73条の条文では
権利に関する紛争性・事件性は要求されていない
弁護士法28条とは異なる
詳しくはこちら|業としての権利の譲受と実行の禁止(弁護士法73条の全体像)
い 解釈
弁護士法73条の『権利』について
紛争性(事件性)を要する見解もある
紛争性は必要ではないという見解もある
※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p644
4 『訴訟,調停,和解その他の手段』の意味と解釈
弁護士法73条の規定では,権利の譲受の後に,権利を実行(行使)することが要件となっています。
権利の実行の手段として,条文では『訴訟,調停,和解』が記載されています。
そして『その他の手段』も記載されています。
そこで,解決手段の記載は例示であって,権利の実行の手段は限定されていないと解釈されます。
<『訴訟,調停,和解その他の手段』の意味と解釈>
あ 条文規定の内容(前提)
権利実行の手段として
『訴訟,調停,和解その他の手段』が規定されている
い 解釈
規定(あ)は例示である
権利実行のための手段のいかんを問わない
手段は特に紛争を誘発するおそれがあることを要しない
※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p642
う 任意交渉の扱いの具体例
債権取立行為を法的手続外の任意交渉のみに限る意図であっても
→弁護士法73条違反になり得る
※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p642
5 『業とする』の意味と解釈
弁護士法73では,権利の譲受の後に権利を行使することを一般的に禁じているわけではありません。
これを『業とする』ものだけを禁止しています。
『業とする』の意味は,大雑把にいうと反復継続の意思ということになります。
<『業とする』の意味と解釈>
あ 『業とする』の解釈
弁護士法73条の『業とする』について
弁護士法72条と同様の解釈となる
※福岡高裁昭和28年3月30日
※最高裁昭和40年10月19日
い 弁護士法72条の解釈(概要)
弁護士法72条の『業とする』について
→『ア・イ』のいずれをも満たすこと
ア 行為が反復継続的に遂行されているイ 社会通念上『事業の遂行』とみることができる程度のものである
詳しくはこちら|非弁護士の法律事務の取扱禁止(非弁行為)の基本(弁護士法72条)
6 正当業務行為としての違法性阻却
以上で説明した解釈を前提として弁護士法73条の要件に該当しても,違法とするのは不合理だという状況もあります。
そこで,実質面の考慮(評価)によって,違法とはしない(適法化する)扱いがあります。
法的には正当業務行為として違法性を阻却するという理論です。
<正当業務行為としての違法性阻却>
あ 正当業務行為
形式的には弁護士法73条に該当する行為でも
社会的経済的に正当な業務の範囲内であれば
正当な業務行為として違法性が阻却される
※刑法35条
※最高裁平成14年1月22日
い 違法性阻却の判断要素(事情)
ア 権利の譲受けの方法・態様イ 権利実行の方法・態様ウ 被告人の業務内容やその実態など
う 違法性阻却の判断基準
『い』の事実を審理して
社会的経済的に正当な業務の範囲内の行為であるかどうかを判断する
この判断においては『ア・イ』などを含めて考慮する
ア 濫訴・紛議のおそれ
被告人の行為が濫訴を招いたり紛議を助長したりするおそれがないかどうか
イ 債権取立業務の該当性
弁護士法72条が禁止する預託金の取立代行業務などの潜脱行為に当たらないかどうか
※最高裁平成14年1月22日;ゴルフ会員権の譲受について
※日本弁護士連合会調査室編著『条解弁護士法 第4版』弘文堂2007年p646
7 弁護士法73条違反が判断された裁判例(概要)
以上のように,最高裁判例は,違法性阻却の判断要素(材料)や基準を示しています。しかし結局,具体的事案について明確に判断ができるようなものではありません。この違法性阻却によって,さらに弁護士法73条に該当するかどうかの判断にはブレが生じる結果となっています。
そこで,実際に裁判所が判断した具体的事例を把握する方が参考になります。実例については別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|弁護士法73条違反の判断をした裁判例の集約(債権・賃借権・所有権)
本記事では,弁護士法73条の要件の解釈について説明しました。
実際の事案では,個別的事情によって判断が大きく変わるということもあります。
実際の問題に直面されている方は,本記事だけで判断せず,法律相談をご利用くださることをお勧めします。