【弁護士法73条違反の判断をした裁判例の集約(債権・賃借権・所有権)】
1 弁護士法73条違反の判断をした裁判例
2 債権の譲受と実行の事例(違法認定)
3 債権の譲受と実行の事例(適法認定)
4 賃借権の譲受と実行の事例(違法認定)
5 所有権(土地)の譲受と実行の事例(適法認定)
1 弁護士法73条違反の判断をした裁判例
弁護士法73条は,業としての権利の譲り受けと権利の実行を禁止しています。
詳しくはこちら|業としての権利の譲受と実行の禁止(弁護士法73条の全体像)
実際には,この規定に該当するかどうかがはっきりしない状況が多くあります。
これについては,具体的な事案(実例)についての判断を把握すると分かりやすいです。
そこで,本記事では,弁護士法73条に該当するかどうかが判断された実例(裁判例)を紹介します。
2 債権の譲受と実行の事例(違法認定)
弁護士法73条違反となる行為の代表的な類型は債権譲渡とその後の債権回収というものです。
最初に,債権譲渡が弁護士法73条に該当して違法と判断された事例を紹介します。
<債権の譲受と実行の事例(違法認定)>
あ 債権の購入
Aは,約2年の間に合計6人の者から合計8個の債権を譲り受けた
いずれも支払命令(支払督促)を申し立てた
い 裁判所の判断
弁護士法73条に該当する
代物弁済としての債権譲渡も含む
※福岡高裁宮崎支部昭和32年10月8日
この頻度・回数が『業として』に該当すると判断されたのです。
基準として参考になるものです。
3 債権の譲受と実行の事例(適法認定)
代表的な類型である債権譲渡ですが,弁護士法73条違反とはならなかった事例です。
<債権の譲受と実行の事例(適法認定)>
あ 背景
Aは会社Bに勤務していた
AはBを退職した
Aの複数の取引先(債権者C)がBに対する債権を持っていた
Bは経営不振により債務の弁済が滞っていた
債権者Cは困っていた
AはBの代表者と話し合った
Aが『債権をAが買い受ける』という解決策を提示した
Bの代表者はこれを了解した
い 債権の購入
債権十数口,金額約40万円の売掛債権について
Aは,それぞれ6〜7割の金額で譲り受けた
Aは,譲受の数日後にBへの支払命令を申し立てた
う 裁判所の判断
『業として』には該当しない
→適法である
※東京高裁昭和28年11月4日
債権譲渡や権利行使(支払命令申立)だけをみると『業として』に該当するように思えます。
しかし,背景には特殊な事情があったため,『業として』には該当しないと判断されたのです。
4 賃借権の譲受と実行の事例(違法認定)
類型としてはややマイナーな賃借権の譲受というケースです。
<賃借権の譲受と実行の事例(違法認定)>
あ 土地の権利関係
銀行が土地に根抵当権を設定した
土地に賃借権が設定された
い 競売手続中の賃借権譲渡
銀行が土地の競売を申し立てた
売却前にAが賃借権を譲り受けた
う 賃借権に関する交渉
Aは,賃借権をめぐり銀行に示談的な解決を持ちかけた
え 裁判所の判断
賃借権の譲渡は弁護士法73条に違反する
賃借権の譲渡は無効である
賃借権の移転登記の抹消請求を認容した
※鹿児島地裁昭和38年10月10日
賃借権が根抵当権に劣後することや,賃借権譲渡のタイミングが競売申立後で売却前であったことが考慮されたように思います。
大雑把にいえば,異常なものである・悪質であるというような印象があるのです。
弁護士法73条に該当するかどうかの判断では,正当性も大きく影響します(正当業務行為)。
詳しくはこちら|弁護士法73条の各要件(文言)の解釈(成立するかどうか)
このような全体的な印象も判断結果に影響するのです。
5 所有権(土地)の譲受と実行の事例(適法認定)
弁護士法73条に該当する権利(の譲受)は,債権に限りません。
所有権をはじめとする物権も含みます。
その実例として土地の所有権の譲受に関する裁判例を紹介します。
結果としては,『業として』には該当しないとして,弁護士法73条は成立しないと判断されました。
<所有権(土地)の譲受と実行の事例(適法認定)>
あ 紛争前提での土地購入
A所有の土地について無断転借人Bが存在した
CがAから土地(所有権)を譲り受けた
譲渡(売買)にはいわゆる事件屋が関与していた
い 直後の裁判手続
Cは譲受と同時に保全手続の準備をした
譲受から11日後にCは明渡断行の仮処分を申し立てた
う 違法性に関する裁判所の判断
Cが土地を購入(譲受)したことについて
『業として』の権利譲受とはいえない
→土地(所有権)の譲渡は有効である
え 仮処分の内容に関する裁判所の判断
仮処分の必要性が低いことを理由に仮処分異議を一部認容した
具体的内容=債務者(B)に使用を許すという条件を付けた
※最高裁昭和25年2月28日
本記事では,弁護士法73条に関する裁判例を紹介しました。
実際の事案では,個別的事情によって判断が大きく変わるということもあります。
実際の問題に直面されている方は,本記事だけで判断せず,法律相談をご利用くださることをお勧めします。