【解除権の行使の法的性質・効力発生時期と撤回の可否(民法540条)】
1 解除権の行使と撤回の規定と解釈
2 解除権の行使の規定と解釈
3 解除の撤回の規定と解釈
4 相手方の承諾による解除の撤回
1 解除権の行使と撤回の規定と解釈
一般的に,いろいろな法的根拠によって契約を解除できることがあります。
本記事では,一般的な解除について,その法的性質や効力発生時期と撤回の可否について説明します。
このような基礎的な理論は,別の法解釈で活用することがよくあります。
2 解除権の行使の規定と解釈
まず,一般的な契約の解除権の行使に関する民法の規定を押さえます。
解除は,当事者の一方の意思表示によって行われます。
そして,意思表示が相手方に到達した時に解除の効力が発生します。
<解除権の行使の規定と解釈>
あ 条文規定
契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは
その解除は,相手方に対する意思表示によってする。
※民法540条1項
い 解除の法的性質(※1)
解除は相手方ある意思表示によってなされる
う 解除の効力発生時期
解除の効力が発生する時期は
解除の意思表示が相手方に到達した時である
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(13)債権(4)補訂版』有斐閣2006年p803
3 解除の撤回の規定と解釈
解除の意思表示が相手方に到達した時に確定的に契約が解消されるという効果が生じます。
そのため,その後に解除を一方当事者によって撤回することはできません。
<解除の撤回の規定と解釈>
あ 解除の撤回
解除の意思表示は撤回することができない
※民法540条2項
い 直接的な解釈
解除の効力発生後に,一方的意思表示により撤回することはできない
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(13)債権(4)補訂版』有斐閣2006年p803
4 相手方の承諾による解除の撤回
解除の撤回が認められていない実質的な理由は,解除の相手方の関与がないというところにあります。
そこで,解除の相手方が,解除を撤回することに同意していれば解除の撤回は可能です。
この『解除の撤回』は,『解除の意思表示をした当事者』が『撤回の意思表示をする』ことで行います。
つまり,2者による合意(解除の合意解除)という理論構成にはなりません。
そして,解除が撤回できた場合でも,撤回の効力は第三者への影響がない範囲に限定されます。
<相手方の承諾による解除の撤回>
あ 相手方の承諾
相手方の承諾があれば解除の意思表示を撤回することができる
※最高裁昭和51年6月15日
い 解除の撤回の第三者への影響
解除の意思表示を撤回した場合(あ)
→撤回の効果は第三者に対抗できない
※最高裁昭和36年8月8日
う 合意解除との関係(参考)
解除の撤回(い)は合意解除と似ている
しかし,解除は一方的な(相手方ある)意思表示である(前記※1)
=契約(合意)ではない
→合意した当事者全員による合意の解消(合意解除)とは異なる
本記事では,一般的な解除に関する基礎的な規定と解釈を説明しました。
実際の事案では,この理論がそのまま使えるということはあまりありません。
他の法律の解釈として活用することが多いのです。
具体的な問題に直面している方は,本記事だけで判断せずに,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。