【解除の前と後の第三者の保護(民法545条1項・対抗関係)】
1 解除における第三者の保護(民法545条1項)
2 解除の効果の規定と解釈
3 解除における第三者の保護の規定と解釈
4 民法545条1項の『第三者』の範囲
5 『第三者』に該当しない具体例
6 『第三者』の登記の要否
7 解除前の『第三者』の保護に関する事例(判例)
8 解除後の第三者の扱い
9 解除前/後の第三者の違い(問題点の比較)
10 遺産分割の第三者保護規定(参考)
1 解除における第三者の保護(民法545条1項)
一般的な契約の解除について,契約の当事者以外の第三者の利害と衝突することがあります。
このような第三者の保護については,民法の条文に規定されています。
しかし,これに関するいろいろな解釈があります。
非常に基礎的な理論ですが,具体的な紛争解決での解釈のベースとして活躍することもあります。
本記事では,解除における第三者の保護について説明します。
2 解除の効果の規定と解釈
まず前提として,契約の解除の効果には遡及効があります。
そのために,第三者との優劣の問題が生じるのです。
<解除の効果の規定と解釈>
あ 条文規定(※1)
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。
※民法545条1項本文
い 遡及効
解除には遡及効がある
う 物権的効力
解除の遡及効は物権的効力をもつ
※判例・通説
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(13)債権(4)補訂版』有斐閣2006年p882,883
3 解除における第三者の保護の規定と解釈
民法545条1項ただし書には,第三者を保護する内容の規定があります。
この『第三者』の意味は,解除よりも前に契約の目的物を譲り受けた者と解釈されています。
つまり,この規定によって保護されるのは解除前の第三者に限定されるのです。
解除前の第三者だとしても,保護されるにはさらに登記など(対抗要件)を得ていることが必要です。
<解除における第三者の保護の規定と解釈>
あ 条文規定
(解除の効果(前記※1)について)
ただし、第三者の権利を害することはできない。
※民法545条1項ただし書
い 『第三者』の意味(概要)
解除前に契約目的物を譲り受けた者である(後記※2)
う 保護される理論的解釈
第三者の保護の範囲で遡及効が制限される
保護されるためには第三者は登記など(※4)を要する(後記※3)
※大判大正10年5月17日
第三者として保護されるためには登記などの対抗要件が必要です。
必要な理由は対抗関係とする見解と対抗関係ではない趣旨の理論があります(後記)。
まぎらわしいので,本記事では『登記など』という表記(前記※4)に統一します。
4 民法545条1項の『第三者』の範囲
実務では,民法545条1項ただし書の『第三者』に該当するかどうかがはっきりしないというケースもあります。
『第三者』といえるためには,まず,権利を得た時期が解除よりも前である必要があります。
さらに,得た権利は(解除した)契約に基づく給付の目的である必要もあります。
<民法545条1項の『第三者』の範囲(※2)>
あ 『第三者』の意味(基本的解釈)
民法545条1項ただし書の『第三者』とは
解除前において,契約に基づく給付の目的たる物or権利についての権利を得た者である
典型例=譲受人
※大判明治42年5月14日
※大判大正12年5月28日
い 『第三者』の具体例
ア 所有権の譲受人イ 抵当権者,質権者
給付の目的物の抵当権者,質権者
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(13)債権(4)補訂版』有斐閣2006年p885
ウ 賃借人
給付の目的物の賃借人
※東京地裁昭和27年4月8日
5 『第三者』に該当しない具体例
民法545条1項ただし書の『第三者』といえるためには,得た権利が解除した契約に基づく給付の目的物か権利である必要があります。
契約によって生じた権利を得た者はこの規定の『第三者』には該当しません。
<『第三者』に該当しない具体例>
あ 『第三者』に該当しない例
『い〜か』について
→民法545条1項ただし書の『第三者』には該当しない
い 契約上の債権の譲受人
契約によって生じた債権Aの譲受人
債権Aは解除によって消滅する
※大判明治42年5月14日
※大判大正7年9月25日
う 契約上の債権の差押債権者
契約によって生じた債権を差し押さえた債権者
※大判明治34年12月7日
え 契約上の債権の転付債権者
契約によって生じた債権を差し押さえ,転付命令を得た債権者
※大判昭和9年5月16日
お 第三者契約の受益者
ア 一般的な見解
第三者のためにする契約について
受益者の関与なしで解除できる
イ 反対説
解除のためには第三者の承諾を要するという見解もある
※民法538条
※『新版 注釈民法(13)債権(4)補訂版』有斐閣2006年p790参照
か 借地契約解除と建物の抵当権者
借地契約が債務不履行を理由に解除された
借地上の建物の抵当権者は『第三者』に該当しない
※大判昭和3年3月10日
6 『第三者』の登記の要否
民法545条1項ただし書の『第三者』に該当しても,まだ,保護されるとは限りません。
登記などが必要なのです。
<『第三者』の登記の要否(※3)>
あ 登記などの要否(結論)
『第三者』は登記などを要する
=登記などがないと『第三者』として保護されない
※大判大正10年5月17日
※大判昭和7年1月26日
い 登記などの位置付け
『ア・イ』の2とおりの見解がある
ア 権利保護要件
登記などは第三者の保護に必要な要件である
イ 対抗要件
解除者と『第三者』を対抗関係として扱う
→対抗要件(登記など)を得た方が優先される
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(13)債権(4)補訂版』有斐閣2006年p888
(参考)対抗関係における対抗要件の制度を説明している記事
詳しくはこちら|対抗要件の制度(対抗関係における登記による優劣)の基本
7 解除前の『第三者』の保護に関する事例(判例)
民法545条1項ただし書の『第三者』として保護されるには登記が必要ということは多くの判例で共通していま。
しかし,登記が必要な理由は主に2つあります(前記)。
解除前の第三者の保護についての判例の中の登記が必要な理由をみてみましょう。
<解除前の『第三者』の保護に関する事例(判例)>
あ 対抗関係としての扱い
合意解除がなされた
→解除者と(解除前の)第三者は対抗関係にある
※最高裁昭和33年6月14日
い 対抗関係+信義則の適用
(一般論として)第三者は登記を要する
具体的事情によって信義則を適用した
→解除者は第三者の登記の欠缺を主張しえない
※最高裁昭和45年3月26日
ここで紹介した2つの判例はいずれも対抗関係として扱っていると思われます。
ただし,権利保護要件として扱う判例もあります。
いずれにしても,登記を得た方が優先される,という結論は同じです。
この理論の違いは,他の事項の解釈をする時に影響することはあります。
なお,いずれの理論であっても,前記の判例のように,個別的な特殊事情によって,登記があるけれど劣後する(権利を得られない)ということもあります。
8 解除後の第三者の扱い
解除の前に,契約の目的物についての権利を得た者の扱いは,以上の説明のとおりです。
では,解除後に権利を得た者は保護されないかというと,そうではありません。
このような解除後の第三者は,純粋な対抗関係として扱われます。
要するに,登記を得たほうが優先されるという結論です。
<解除後の第三者の扱い>
あ 民法545条1項ただし書の適用(否定)
解除後において
契約に基づく給付の目的たる物or権利を譲り受けた者について
民法545条1項ただし書の『第三者』には該当しない(前記※2)
い 解除後の第三者の扱い
『あ』の第三者(解除後の第三者)について
解除者への復帰的物権変動と対立する状態となる
→解除者と解除後の第三者は対抗関係として扱う
=対抗要件(登記)を得た方が優先となる
※判例・通説
※大判昭和14年7月7日
※大判大正2年3月8日
※大判昭和13年10月24日
※最高裁昭和35年11月29日
結局,解除前も後も,また,解除前の第三者を保護する理由の2種類の見解のいずれも,結論は登記を得た方が優先となるというものです。
これ自体は単純ですが,別の事項の解釈に影響が出ることはあります。
9 解除前/後の第三者の違い(問題点の比較)
解除前と後の第三者で,法律的な理論(問題点)が違います。
最後に,この違いをまとめておきます。
<解除前/後の第三者の違い(問題点の比較)>
あ 解除前の第三者
解除前に契約目的物の権利を取得した第三者について
→遡及効があるかないかによって権利変動の順序に違いがでる
→『ア・イ』の両方が問題となる
ア 遡及効が制限されるかどうかイ 対抗関係として扱うかどうか
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(13)債権(4)補訂版』有斐閣2006年p884
い 解除後の第三者
解除後に契約目的物の権利を取得した第三者について
→遡及効があってもなくても権利変動の順序に違いはない
→対抗要件として扱うかどうか(だけ)が問題となる
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(13)債権(4)補訂版』有斐閣2006年p884
10 遺産分割の第三者保護規定(参考)
解除における第三者保護と似ている規定として,遺産分割における第三者保護の規定があります。
解釈としては,第三者を遺産分割の前と後であまりはっきりと区別しない傾向があります。
詳しくはこちら|遺産を取得した第三者と遺産分割の優劣の全体像
本記事では,一般的な解除における第三者の保護について説明しました。
非常に基礎的,つまり抽象的な解釈論です。
詳細な解釈論を,前記のように,他の事項の解釈で活用できることがあります。
実際に契約の解除に関する問題に直面している方は,本記事だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。