【養育費の合意とは別の子自身からの扶養料請求(肯定裁判例)】
1 養育費とは別の子供自身による扶養料請求を認めた裁判例
2 離婚成立と養育費の合意(和解)
3 離婚後の母・子の健康悪化
4 父母間の養育費と子自身による扶養請求の関係(概要)
5 子自身の扶養料に関する裁判所の判断
1 養育費とは別の子供自身による扶養料請求を認めた裁判例
離婚に伴って,子供の養育費を決めることになります。話し合いで決まらなければ,最終的には家庭裁判所が審判として決めます。
いったん養育費の金額を決めると,経済的な事情の変化がないと変更(増額・減額)は認められません。
詳しくはこちら|養育費や婚姻費用の増減額請求が認められる『事情の変更』の判断基準
これと似ているのですが,子供自身が父(or母)に扶養料を請求するという方法があります。原則的にこれは認められています。
詳しくはこちら|父母間の養育費とは別に子自身による扶養料の請求ができる
払う方の親の立場からすると,いったん養育費の金額を決めても,子供自身から別に(追加で)請求されることがある,ということです。
本記事では,実際にこのような請求が認められた裁判例を紹介します。
2 離婚成立と養育費の合意(和解)
離婚が成立し,母が子を引き取ることになり,この時点で養育費の金額が決められました。
<離婚成立と養育費の合意(和解)>
あ 離婚訴訟における和解成立
夫X・妻Yの離婚訴訟において
裁判上の和解が成立した
い 主な合意(和解)内容
協議離婚する
和解金130万円を夫Xが妻Yに支払う
子Aの養育費として月額2万円をXがYに支払う
それ以外の請求は放棄する
3 離婚後の母・子の健康悪化
その後,母の病状が悪化し,無職の状態が続くことになりました。
収入がないので,母と子の生活は苦しいです。
さらに,子の病状もとてもつらいものとなり,手術を受けることになりました。
<離婚後の母・子の健康悪化>
あ 母
母Yは,結婚中から健康を害していた
別居・離婚後に病状が悪化した
行政書士などの資格を取得した
しかし無職であった
い 子
子Aは,頭頂部の骨折があった
卒倒する発作が断続的にあった
離婚後に,さらに小児喘息に罹患した
停留睾丸の摘出手術を受けた
4 父母間の養育費と子自身による扶養請求の関係(概要)
母と子の経済的状況はとても悪化しました(前記)。
そこで素朴に,父が払う養育費を増額させるという発想があります。
しかし,養育費増額を裁判所が決める場合は,理論的な事情の変更の主張や立証が必要になります。
そこで,養育費の増額とはまったく違う子自身が父に扶養料を請求するという方法が有力な選択肢となるのです。
原則的にこの方法は認められます。
<父母間の養育費と子自身による扶養請求の関係(概要)>
あ 子の扶養料請求と養育費の合意の関係
父母間の養育費の合意について
→子には拘束力を有しない
子は扶養料を請求できる
扶養料算定の際に斟酌されるべき1つの事情にとどまる
い 養育費相当額の控除の有無
扶養料の算定において
父母間の養育費の額は,当然に控除しなければならないものではない
=個別的事情によって控除の有無を判断する
※仙台高裁昭和56年8月24日
5 子自身の扶養料に関する裁判所の判断
裁判所は,母や子の病状や父も含めた関係者の経済的状況から,扶養料の算定をしました。
母と子は経済的に同一といえる状態なので,父が母に支払う養育費の金額は差し引くことになりました。
<子自身の扶養料に関する裁判所の判断>
あ 扶養料の算定
純粋な扶養料として
月額2万5000円が相当である
い 養育費の控除
『あ』の扶養料の金額から
→養育費としての合意額2万円を控除する
う 結論
父Xが子Aに支払う扶養料は月額5000円とする
※仙台高裁昭和56年8月24日
本記事では,父・母の間の養育費の取り決めは別に子供自身が父に請求した扶養料を裁判所が認めた実例を紹介しました。
この点,扶養請求などの家事審判では,家庭裁判所の裁量がとても広く,個別的事情や主張・立証によって結論が大きく異なるということがよくあります。
実際の問題に直面している方は,本記事だけで判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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