【行政刑罰(事業主処罰規定)は刑法の原則とは違う特殊性がある】
1 行政刑罰・事業主処罰規定の特殊性
2 行政刑罰と刑法との関係
3 事業主処罰規定の特殊性(刑法の規定との違い)
4 事業主や従業者の判断(概要)
1 行政刑罰・事業主処罰規定の特殊性
いろいろなサービスに関する業法では,違反に対する罰則が規定されています。
これを行政刑罰と呼んでいます。
刑事罰ではありますが,一般的な刑法の罪とは違うところが多いです。
本記事では,一般的な行政刑罰についての特殊性,つまり刑法との違いについて説明します。
2 行政刑罰と刑法との関係
行政刑罰は,法律的な性質として,刑法以外による罪といえます。
刑法の基本ルールと違いますが,これは刑法8条によって許容されるという関係にあります。
<行政刑罰と刑法との関係>
あ 刑法上の『他の法令の罪』の条文規定
この編の規定は、他の法令の罪についても、適用する。
ただし、その法令に特別の規定があるときは、この限りでない。
※刑法8条
い 『他の法令』の具体例
いわゆる行政刑罰は『他の法令の罪』に該当する
う 『特別の規定』の具体例(※1)
最も代表的な『特別の規定』は
行政刑罰の事業主処罰規定である
※大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第1巻 第3版』青林書院2015年p139
3 事業主処罰規定の特殊性(刑法の規定との違い)
行政刑罰の特徴は,対象となる事業を行う者,つまり事業主が処罰の対象となっているところです。
各種業法のルールとして考えると当然なのですが,刑法の原則からは大きく外れています。
<事業主処罰規定の特殊性(刑法の規定との違い)>
あ 事業主処罰規定の特徴
行政刑罰の規制の対象は
主に組織的に事業活動を営んでいるものである
規制違反に関し,多数の事業主処罰規定が設定されている
事業主には法人や団体も多数含まれる
い 刑法との違い(『特別の規定』)
事業主処罰規定では,法人・団体が『ア〜ウ』に該当する
→刑法総則の規定(う)とは異なる
→刑法8条の『特別の規定』(前記※1)という意味である
ア 犯罪の主体イ 受刑主体ウ 刑法の予定している責任条件との関係
※大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第1巻 第3版』青林書院2015年p138,139
う 刑法総則の基本的規定(参考)
刑法総則では明文規定はないが自然人を前提としている
行為者への非難可能性が処罰する実質的根拠である
4 事業主や従業者の判断(概要)
以上の説明は,これ自体が実際に問題となることは通常ありません。
実際に処罰が適用されるのか,また,処罰を受ける者が誰か,という判断の中の解釈で使えるというものです。
事業主や従業者の意味や解釈については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|行政刑罰(事業主処罰規定)の『事業主』の判断基準
詳しくはこちら|行政刑罰の従業者の判断や責任と事業者の責任との関係(両罰規定)
本記事では,行政刑罰(事業主処罰規定)の理論について説明しました。
実際の事案における罰則の適用に関しては,本記事の説明内容だけで判断できるわけではありません。
実際の問題に直面している方や,新規サービスの提供を検討している方は,弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。