【養育費や婚姻費用の増減額請求が認められる『事情の変更』の判断基準】

1 養育費や婚姻費用の増減額の判断基準
2 養育費・婚姻費用の増減額の判断基準
3 事情の変化の内容の種類
4 未発生=将来発生が予想される事情の考慮
5 未発生の事情の考慮を否定した裁判例
6 事情の変化の予測可能性の具体例
7 金額を変更する必要性の判断方法

1 養育費や婚姻費用の増減額の判断基準

養育費や婚姻費用分担金が決まっても,その後の状況の変化によっては増減額の請求が認められます。
詳しくはこちら|養育費や婚姻費用の増減額請求の基礎的理論(法的根拠)
実際にはどのような状況の変化があれば増額や減額が認められるのかということが問題となるケースが多いです。
本記事では,養育費や婚姻費用の増減額請求の判断基準について説明します。

2 養育費・婚姻費用の増減額の判断基準

養育費や婚姻費用の金額の増減額を判断するための基本的な基準は3つあります。

<養育費・婚姻費用の増減額の判断基準>

あ 事情の変化

合意or審判の基礎とされた事情と現在の事情とを比較する(後記※1
※東京高裁昭和50年3月19日

い 事情の変化の予測可能性

事情の変化(あ)が予測できなかったのかどうか
予測できた事情の変化は考慮(比較の対象と)しない(後記※2

う 金額を変更する必要性

(事情変化(あ)があった場合に)
義務者の婚姻費用分担額(養育費)を変更すべきかどうか(後記※3
※南方暁稿『転職による減収を理由とする婚姻費用分担額変更の可否』/『民商法雑誌144巻2号』2011年5月p327
※冨永忠祐編『改訂版 子の監護をめぐる法律実務』新日本法規出版2014年p173

この3つのそれぞれの内容は,順に説明します。

3 事情の変化の内容の種類

事情の変化は,養育費などの金額を変更するための根本的な理由です。
経済状況に関わる事項については広い範囲のものが考慮されます。
典型的な具体例をまとめます。

<事情の変化の内容の種類(※1)

あ 当事者の収支

義務者と権利者の両方の収入や支出における事情
※鳥取家裁昭和43年1月6日;婚姻費用

い 義務者の就労に係る条件
う 義務者の健康状態

※福岡家裁昭和42年3月23日;婚姻費用

え 物価指数・具体的生活費

物価指数や双方の具体的生活費
※東京家裁昭和37年8月14日;婚姻費用

お 義務者の負債

義務者が有する負債
例=事業運営資金によるもの
※東京高裁平成8年12月20日;婚姻費用以外

か 義務者が有している重要な資産の処分

※神戸家裁尼崎支部昭和44年9月1日;婚姻費用
※横浜家裁川崎支部平成19年1月10日参照

4 未発生=将来発生が予想される事情の考慮

事情の変化に関して,近い時期に生じると思われる事情を含めるかどうかという問題があります。
これについては,発生が確定していない以上は考慮しない,という扱いが一般的です。
逆に,その後実際にある事情が生じたら,その段階で改めて増減額の請求ができる(すればよい)ということになります。

<未発生=将来発生が予想される事情の考慮>

あ 未発生の事実の扱い

将来発生するかもしれない事情について
事情の変更として比較検討する対象ではない

い 発生後の変更請求

具体的に事実が確定した時点で
協議or審判により定められるべきである
=事実確定時点で新たな変更請求(申立)を行えばよい
※東京高裁昭和51年3月23日
※東京高裁昭和63年9月14日;扶養料請求について

5 未発生の事情の考慮を否定した裁判例

未発生の事情は,ほぼ確実に発生するものでも考慮しない傾向があります。
具体例を紹介します。

<未発生の事情の考慮を否定した裁判例>

あ 事案

子を母が監護していた
母Yは就労可能であった
父Xの再婚相手が出産予定であった

い 原審の判断

出産予定を考慮する
→将来の一定の時点以降の養育費を減額する
これは父の主張であった

う 裁判所(抗告審)の判断

出産の事実はまだ確定していない
→将来の減額は認めない
※東京高裁昭和63年9月14日;扶養料請求について

6 事情の変化の予測可能性の具体例

養育費などの増減額の判断基準の2つ目は事情の変化の予測可能性です。
いったん金額が決まった後に事情の変化があったとしても,最初から想定していたことは,織り込み済みのはずです。
つまり,金額の変更を認める理由にはならないということです。

<事情の変化の予測可能性の具体例(※2)

あ 考慮しない事情

『い〜え』の事情について
事情の変化とは認められない
=婚姻費用(養育費)の変更を認める理由にはならない

い 既に存在した事情

婚姻費用(養育費)の確定時より以前から存在した事情

う 予定された事情

婚姻費用(養育費)の確定時において
近い将来に予定or当然必要とされていた事情
※宮崎家裁延岡支部昭和55年12月13日

え 予見可能な事情

婚姻費用(養育費)の確定時において
予見可能であって後日現実化した事情
※神戸家裁尼崎支部昭和44年9月1日
※福岡高裁宮崎支部昭和56年3月10日

7 金額を変更する必要性の判断方法

ここまでの2つの基準をクリアしても,養育費などの金額を変更するとは限りません。
事情の変化の程度(変化の幅)がある程度大きくないと,過去の金額が維持されます。

<金額を変更する必要性の判断方法(※3)

あ 必要性の判断基準

養育費(婚姻費用)の変更が認められるためには
事情の変更が『現在の扶養関係をそのまま維持することが当事者のいずれかに対してもはや相当でないと認められる程度に重要性を有する』ことが必要である
※福岡高裁宮崎支部昭和56年3月10日
※東京高裁平成16年9月7日;同趣旨
※大阪高裁平成22年3月3日;同趣旨

い 変更の必要性の判断

婚姻費用(養育費)の内容(金額)を変更する必要性の判断において
『う』の中の両方の事情が考慮される

う 考慮する事情

ア 客観的な事情イ 変更するための正当事由or合理的事由の存在 ※南方暁稿『転職による減収を理由とする婚姻費用分担額変更の可否』/『民商法雑誌144巻2号』2011年5月p328

本記事では,養育費や婚姻費用分担金の増減額を認めるかどうかの判断基準を説明しました。
この基準は少し抽象的なものです。具体的な事案の事情を元にして,明確に判定できるものではありません。
実務でも,主張の組み立てや証拠の選択で,結果に大きな違いが生まれます。
実際に,養育費や婚姻費用分担金の増減額の問題に直面している方は,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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