【広告の掲載を拒否したメディアの違法性=拒否する自由(過激用語伏字事件)】
1 広告の掲載を拒否したメディアの違法性(拒否する自由)
2 見出し広告の伏字掲載事件(適法裁判例)
3 広告拒否の適法性判断基準
1 広告の掲載を拒否したメディアの違法性(拒否する自由)
新聞社などの民間のマスメディアは広告を掲載しています。
広告料は購読料とならぶ重要な収益源です。
重要ではありますが,事情によってはメディアが広告の掲載を拒否することもあります。
本記事では,メディアが広告掲載を拒否することの違法性について説明します。
正確には,広告を掲載する契約を締結しないことの違法性のことです。
裏返しにいえば,メディアが広告を拒絶する自由というテーマです。
2 見出し広告の伏字掲載事件(適法裁判例)
見出し広告について,過激な内容の広告の掲載の申込がありました。
批判する金融商品のことを『金融麻薬商品』と表示するものでした。
新聞社は広告主に,もっと穏当な表現への変更を要請しましたが,広告主は変更に応じませんでした。
そこで新聞社は『麻薬』の文字を伏字にした上で掲載しました。
裁判所は,結論として,新聞社の責任を否定しました。
<見出し広告の伏字掲載事件(適法裁判例)>
あ 過激な内容の広告掲載申込
広告主は,新聞社(北方ジャーナル)に記事広告の掲載を申し込んだ
内容は,北海道銀行の金融商品を『金融麻薬商品』と表現したものであった
新聞社は,『麻薬』の2文字が不適切であると判断し,広告主に変更を迫った
広告主はこれに応じなかった
い 無断での伏字掲載
新聞社は,『麻薬』部分を『○○』と伏字にして掲載した
広告主には無断で伏字にした
う 広告拒否
『い』の後に,新聞社は同様の広告の掲載を拒否した
え 適法性(裁判所の判断)
広告拒否の適法性判断基準(後記※1)を用いる
新聞社の対応は,恣意的な解釈に基づくものではない
広告主に損害を与える意図によるものではない
→公序良俗に反しない
→債務不履行・不法行為には該当しない
※札幌地裁平成15年9月11日
3 広告拒否の適法性判断基準
前記の裁判例では,新聞社(メディア)が広告を拒否することの適法性についての判断基準を示しました。
要するに,私的自治の原則から,契約を締結するかどうかは自由であるという原則に沿った判断です。
一方,極端に不合理な事情がある場合だけ例外的に,この自由が制限される,つまりメディアが責任を負うということもありえます。
<広告拒否の適法性判断基準(※1)>
あ 広告拒否(前提事情)
新聞社が,広告代理店との間の広告掲載契約に基づき,特定の広告の掲載を拒絶する
広告の表現,内容が修正されることを条件に広告掲載に応じる対応をとる
い 原則=適法
原則として公序良俗に反しない
広告代理店に対して債務不履行にはならない
広告主に対して不法行為にはならない
う 例外=違法
新聞社と広告代理店が著しく恣意的な契約解釈に基づき,広告主に損害を与える意図で広告を拒否したなどの特段の事情がある場合
→公序良俗に反する
※札幌地裁平成15年9月11日
本記事では,メディアが広告の掲載を拒否することの違法性(拒否する自由)について説明しました。
つまり,掲載する契約を締結しないことの違法性というテーマです。
一方,既に広告掲載の契約を締結した後に,契約を解除することの問題もあります。
詳しくはこちら|広告掲載の契約を解除したメディアの責任(原発バイバイCM打ち切り事件)
いずれにしても実際には,個別的な事案の中の,多くの細かい事情によって広告掲載拒否の違法性の有無が判断されます。
実際の問題に直面している方や,掲載を拒否すべきかどうかを検討しているメディアの関係者は,本記事の内容だけでは判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。