【広告掲載の契約を解除したメディアの責任(原発バイバイCM打ち切り事件)】
1 広告掲載の契約を解除したメディアの責任(拒否する自由)
2 原発の安全性・必要性の放送における扱い(前提)
3 民放連の放送基準
4 放送法の番組の編集の方針の条文
5 原発バイバイCM放映打ち切り事件(適法裁判例)
1 広告掲載の契約を解除したメディアの責任(拒否する自由)
テレビ局などの民間のマスメディアは広告を掲載しています。
特に民放では,広告料は非常に重要な収益源です。
重要ではありますが,事情によってはメディアが広告の掲載を拒否することもあります。
本記事では,メディアが,既に締結した広告の掲載(放映)の契約を解除することの責任について説明します。
裏返しにいえば,メディアが広告を拒絶する自由というテーマです。
2 原発の安全性・必要性の放送における扱い(前提)
まず,原子力発電所の安全性や必要性を内容とする広告に関する裁判例を紹介します。
このようなトピックの特徴は,社会の中で意見が大きく分かれていることです。
純粋に科学的に判断できることではなく,社会が判断する問題なのです。
そのため,断言する内容は,複数の意見のうち1つが正しいと思われることにつながるため,ふさわしくありません。
放送基準ではこのような内容の放送を不適切なものとしています。
実際に過去に断言するメッセージは回避したというケースがありました。
<原発の安全性・必要性の放送における扱い(前提)>
あ 社会的な意見の対立
原子力発電所の安全性・必要性の問題について
社会の意見が対立している
い 断言と放送基準の抵触
安全性・必要性の肯定or否定を断言することは
放送基準46項,98項(後記※1)に抵触する
う 過去の扱いの実例
電力会社が放映を求めたコマーシャルにおいて
『原子力発電は安全です』とのメッセージがあった
放送局はこのメッセージを拒絶した
放送局は『原子力発電は安全第一に取り組んでいます』とのメッセージを許容した
※高松高裁平成5年12月10日
3 民放連の放送基準
前記の説明の中で登場した民放連の放送基準の該当する部分をまとめます。
社会の中で複数の意見があるテーマでは,そのうち1つの意見の表明は偏った内容でありふさわしくないという趣旨のものです。
<民放連の放送基準(※1)>
あ 多角度からの議論
社会・公共の問題で意見が対立しているものについては、できるだけ多くの角度から論じなければならない
※民放連放送基準46項
い 一方的主張の排除
係争中の問題に関する一方的主張または通信・通知のたぐいは取り扱わない
※民放連放送基準98項
4 放送法の番組の編集の方針の条文
前記の放送基準は,民放各社により構成される民放連が定めた自主規制です。
詳しくはこちら|マスメディアの業界ごとの自主規制(一般・広告)の種類と歴史
自主規制とはいっても,法律(放送法)上の規定に沿うものです。
<放送法の番組の編集の方針の条文>
放送事業者は、国内放送及び内外放送の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
※放送法4条1項
5 原発バイバイCM放映打ち切り事件(適法裁判例)
前記のような過去の状況や民放連の基準を前提として,原発に関する広告の放映契約の途中解除の適法性について裁判所が判断します。
『原発バイバイ』というメッセージは,原発の必要性を断定的に否定するものであると判断されました。
その結果,放送契約を解除することは適法とされました。
<原発バイバイCM放映打ち切り事件(適法裁判例)>
あ 原発批判のCM
広告主は『原発バイバイ』とのテロップを含むスポットコマーシャルの放映を求めた
放送局は『原発を考えよう』と修正するよう提案した
広告主は拒絶した
放送局はこのコマーシャルを2日間放映した
放送局は,その後放映を打ち切った
い 拒絶(解除)の適法性
『原発バイバイ』のテロップ(表示)について
明らかに原子力発電所の必要性を断定的に否定した表現である
テロップは放送基準46項,98項(前記※1)に抵触する
→放送契約解除は公序良俗に反しない
※高松高裁平成5年12月10日
本記事では,広告を掲載(放映)する契約を途中で解除することの責任について説明しました。
なお,広告掲載契約を締結するかどうかの局面では,メディアには大きな判断の自由があります。
詳しくはこちら|広告の掲載を拒否したメディアの違法性=拒否する自由(過激用語伏字事件)
いずれにしても実際には,個別的な事案の中の,多くの細かい事情によって責任が判断されます。
実際の問題に直面している方や,掲載(放映)すべきかどうかを検討しているメディアの関係者は,本記事の内容だけでは判断せず,弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。