【母の反対による婚約破棄→慰謝料400万円+財産的損害賠償を認めた裁判例】

1 母親の反対による婚約破棄の裁判例
2 婚約成立と結婚に向けた準備
3 婚約男性の母の主導による婚約破棄
4 婚約破棄の正当理由・慰謝料の判断
5 不当性が強いために相場より大きな責任となった
6 婚約破棄に関与した親の責任の判断基準

1 母親の反対による婚約破棄の裁判例

婚約が成立した後,不当に破棄されたケースでは,法的な賠償責任が生じます。
詳しくはこちら|婚約破棄の慰謝料は30〜300万円が相場だが事情によって大きく異なる
詳しくはこちら|婚約を破棄した者は出費や退職による収入減少の賠償をする(財産的損害)
本記事では,婚約破棄の理由が(婚約男性の)母親の反対であったというケースの裁判例を紹介します。
母親は間接的とはいえ,婚約の破棄に大きな影響を及ぼしたとして,母親にも慰謝料の賠償責任が認められています。

2 婚約成立と結婚に向けた準備

婚約が成立し,その後,順調に結婚に向けた準備が進んでいました。

<婚約成立と結婚に向けた準備>

あ 婚約と交際

男性Aは女性Bは見合いをした
その後,結納をかわして交際していた(婚約した)

い 結婚式・同居の準備

A・Bは,挙式の日時を決定した
挙式,披露宴の準備を着々と進めた
準備内容=貸衣裳・披露宴の列席者・記念品の選定,招待状の発送など
嫁入道具やその他衣類,身の廻り品を買いととのえた
このような準備はA・B・Aの母Cの3人で話し合いながら進めていた

う 女性の退職・新婚旅行の準備

Bは勤務先を退職した
ハワイへの新婚旅行の準備をしていた
※徳島地裁昭和57年6月21日

3 婚約男性の母の主導による婚約破棄

その後,婚約した男性は婚約を解消(破棄)しようと思いましたが,撤回(婚約を維持)することになりました。
最後に,母親が強く婚約破棄を勧めました。
婚約破棄の意思を伝えたのも母親(による電話)だったのです。

<婚約男性の母の主導による婚約破棄>

あ 男性が持った不満

Aは『ア〜エ』の事情で不満を持つに至った
ア Bの体つきが細いイ Bが約束の時刻に遅れることがあったウ 身なりにも概して無頓着であったエ 料理が上手ではない

い 母親への相談

AはBに不満を打ち明けたことはなかった
Aは不満を母Cに打ち明けた

う 母親の反対

Cも,最初からBに好感を抱いていないことを説明した
Cは,Bのいろいろな欠点を指摘して,婚姻に強く反対すると繰り返し言った

え 婚約者への不満の告知

Aやその家族はBに対して不満を説明した
Bは泣き出した
Aはそれを見て『これからは2人で力を合わせてやって行こう』と言ってAを慰めた

お 母親の主導による婚約破棄

その後,CはAに本心を確認した
Aは『今からでも断わることができるなら断ってほしい』と明言した
Cは直ちに,仲人を通じてB宅に電話して婚約を解消することを伝えた
理由は何も告げなかった
※徳島地裁昭和57年6月21日

4 婚約破棄の正当理由・慰謝料の判断

最終的な婚約破棄の前にも,婚約の破棄(解消)の話がありました。
しかし,最終的な婚約破棄の直前まで婚約者2人は結婚の準備を進めていました。
そして,最終的な婚約破棄を伝えた状況は,母親が強く破棄するよう要請したものでした。
そこで裁判所は,母親の関与が大きいと判断しました。
慰謝料は400万円と算定され,家具などの購入費の7割と婚約女性が退職したことによる減収分の賠償請求も認められました。

<婚約破棄の正当理由・慰謝料の判断>

あ 正当の理由の判断

婚約解消の前日まで,Aは嫁入道具として持参すべき物品の要求をしていた
→婚約破棄の正当理由はない

い 婚約男性の母親の関与の程度

Cの婚約解消への態度は強度であった
Aの態度は,Cの働きかけを受けながらもむしろ優柔不断なものであった
Aだけの判断では,結婚式を実際にとりやめるまでの決意には至っていなかった
Cが反対の意思を強調することがなかったならば,婚約を破棄することなく婚姻していたといえる
Cの行為はAの婚約破棄の決意を誘発させて決意の形成に寄与した

う 連帯の賠償責任

C・Aは婚約破棄の共同不法行為者となる
連帯して賠償責任を負う

え 主な賠償内容

ア 慰謝料 400万円イ 嫁入道具購入代金の7割に相当する額 約161万円ウ 勤務先退職による逸失利益 約123万円 合計 約779万円
※徳島地裁昭和57年6月21日

5 不当性が強いために相場より大きな責任となった

慰謝料の400万円は平均的な相場を上回っています。
詳しくはこちら|婚約破棄の慰謝料は30〜300万円が相場だが事情によって大きく異なる
また,家具の購入費の賠償の割合である7割も高い方です。
詳しくはこちら|婚約を破棄した者は出費や退職による収入減少の賠償をする(財産的損害)
裁判所が,婚約破棄の不当性を特に強いと判断したことが分かります。

6 婚約破棄に関与した親の責任の判断基準

このケースのように,婚約者の親が結婚に反対したことが婚約破棄につながるということはよくあります。
この場合に,親も婚約破棄の責任を負うことがあります。
親の責任の判断基準については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|婚約破棄・内縁破綻に関与した者への慰謝料請求(寝取った者・反対した親)

本記事は,母親の強い反対が婚約破棄につながった事例の裁判例を紹介しました。
参考になる理論がいくつか含まれています。
似ている事案があっても,細かい事情の違いによって,逆の結論となることもあります。
実際に婚約破棄の責任の有無(正当な理由)の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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