【婚約(婚姻予約)の基礎的な理論と解釈の歴史(法的責任の種類・内容)】

代表弁護士三平聡史1 婚約(婚姻予約)の基礎的な理論と歴史
2 婚約の法的扱いの歴史
3 現在の婚約の法的扱いと法的効果
4 婚約に関するマイナーな見解
5 婚約破棄による損害賠償責任の内容
6 婚約未満の男女交際は自由だが例外もある(参考)

1 婚約(婚姻予約)の基礎的な理論と歴史

婚約(婚姻予約)は,今ではありふれたことですが,法律上の規定はありません。
実は,時代の流れとともに判例で認められたものです。
本記事では,婚約が認められるようになった歴史的な経緯や,現在の法的な性質(基礎的な法的扱い)について説明します。
このような知識自体で実際のトラブルが解決するわけではありません。
しかし,婚約破棄の責任(慰謝料)の解釈や判断の中で婚約の基礎的な理論を活用すると有利な結果に結びつくことがあります。

2 婚約の法的扱いの歴史

明治時代に民法が施行された時点まで時代をさかのぼります。
婚姻届出をした正式な婚姻だけが法的に保護されていました。
それ以外の男女交際は非公式なものとして保護の対象外だったのです。
しかし,大正時代にかけて,男女が同居しても婚姻届を出さないことの方が普通になってきたのです。
つまり,事実上の夫婦=婚姻する予定の状態というものが普及してきたのです。
そこで,このような状態の者も保護する必要が生じて,判例で婚約(婚姻予約)を法律的な約束として認めたのです。
要するに,不当に婚約を破棄すると慰謝料の賠償責任が生じるということです。

<婚約の法的扱いの歴史>

あ 明治民法施行時の規定

婚姻外の男女関係は法的規制と保護の対象としない
(→婚姻の届出がないと無効とする)
※旧民法775条,778条2号参照

い 明治民法施行後の社会的状況

結婚式・同居後であっても
『アorイ』に該当するまでは婚姻届を出さないのが一般的であった
→婚姻届を提出しない事実上の夫婦が多くなった
ア 嫁としてふさわしいと『家』に判断されたイ 後継ぎの子を妊娠or出産した ※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p14

う 大正初期

婚姻予約を認める判例が登場した
内容=婚約不履行による損害賠償責任を認めた
※大連判大正4年1月26日

3 現在の婚約の法的扱いと法的効果

現在では,判例や実務では,婚約に法律的な意味(責任)を認めるのは当然となっています。
法律的な責任とはいっても,強制的に婚姻届を出させるということまではできません。
婚姻するかどうかの最終判断自体は国家が拘束できないのです。
法的な責任とは,不当な破棄の結果として,損害賠償責任(慰謝料)を認めるという意味です。

<現在の婚約の法的扱いと法的効果>

あ 基本的な法的扱い

一定の状況があれば法的な意味の婚約を認める

い 婚姻を請求する効果(否定)

婚姻は2人の意思が非常に重視される
※憲法24条,民法742条2項
詳しくはこちら|婚姻の実質的意思が婚姻届提出の時まで維持していないと無効になる
婚約に基づいて婚姻を強制的に実現することはできない
婚姻をする請求自体が認められない
当事者は一方的に破棄(解消)することができる
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p20,21

う 婚姻を求める調停(肯定)

婚約の履行を求める家事調停を申し立てることはできる
あくまでも任意の要請という意味である
※判例・通説

え 婚約破棄の責任

婚約を不当に破棄した場合
→婚約不履行による損害賠償請求(慰謝料など)が認められる
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p20

4 婚約に関するマイナーな見解

現在でも,法律的な意味での婚約を否定する見解があります。
ただし,この見解も,婚約をまったく無意味として扱うわけではありません。
判例とは多少理論が異なりますが,不当な婚約破棄については慰謝料の賠償責任を認めます。
結論としては実質的な違いはないといえます。

<婚約に関するマイナーな見解>

あ 法的な婚約の扱い(否定)

婚姻の自由は最大限尊重すべきである
婚姻するかどうかの判断・意思決定を国家が拘束してはならない
→法律的には婚約を一律に無効とする

い 道義的な婚約の扱い

婚約は社会的・道徳的な義務を生じる非法律的な約束である

う 婚約破棄の法的責任

婚約の不当な破棄(解消)をした場合
婚約者としての地位の侵害として不法行為責任が生じる
=不法行為による損害賠償責任(慰謝料など)
※梶村太市ほか編『夫婦の法律相談 新・法律相談シリーズ』有斐閣2004年p16参照

このように,婚姻する約束に,どこまで国家が介入(拘束)するのか,という価値観にはバラエティが在るのです。
なお,これと似ている解釈論として,婚姻した当事者の性的関係(貞操)にどこまで国家が介入するのか,というものがあります。
詳しくはこちら|不倫の責任に関する見解は分かれている(4つの学説と判例や実務の傾向)

5 婚約破棄による損害賠償責任の内容

不当な婚約破棄によって生じる損害賠償責任の内容は大きく慰謝料財産的損害の2つに分けられます。

<婚約破棄による損害賠償責任の内容>

あ 慰謝料

精神的苦痛(ダメージ)に対する賠償責任
詳しくはこちら|婚約破棄の慰謝料は30〜300万円が相場だが事情によって大きく異なる

い 財産的損害

実際に必要となった出費や退職による収入減少(逸失利益)など
詳しくはこちら|婚約を破棄した者は出費や退職による収入減少の賠償をする(財産的損害)

6 婚約未満の男女交際は自由だが例外もある(参考)

以上のように,男女交際から婚約の成立にステップアップすると法的な責任が生じます。
逆に,婚約未満であれば,少なくとも法的な責任が生じることはありません。
しかし,非常識な状況があると,例外的に慰謝料の賠償責任が生じることもあります。
典型例は,性的関係をもつために既婚であることを隠して交際したというケースです。
詳しくはこちら|既婚を隠した交際・恋愛は慰謝料が認められやすい|恋愛市場の公正取引

本記事では,婚約の基礎的な理論を説明しました。
前記のように,婚約(破棄)に関するトラブルで間接的に使う高度な知識です。
このような細かい理論の主張や立証のやり方次第で,大きな結果の違いが生じることもあります。
実際に婚約破棄の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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