【第三者弁済の規定と解釈(民法474条)】

1 第三者弁済の規定と解釈
2 第三者弁済の条文規定
3 一般的な第三者弁済
4 『その債務の性質がこれを許さないとき』の意味
5 『当事者が反対の意思を表示したとき』の意味
6 第三者弁済としての相殺
7 利害関係を有しない者による第三者弁済
8 『利害関係を有しない第三者』の意味
9 『債務者の意思に反して』の意味

1 第三者弁済の規定と解釈

通常,債務を負う者,つまり債務者が債務の弁済(返済)を行います。
この点,民法474条では,債務者以外の者(第三者)が弁済を行うルールが規定されています。
これを第三者弁済と呼びます。
実務では,いろいろな場面で,債務者以外が弁済したいという状況があります。
そして,この弁済が認められるかどうかが問題となることがよくあります。
本記事では,第三者弁済の規定と基本的な解釈を説明します。

2 第三者弁済の条文規定

まず,民法474条の条文の規定の内容を整理しておきます。

<第三者弁済の条文規定>

あ 一般的な第三者弁済

債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。
※民法474条1項

い 利害関係を有しない者による第三者弁済

利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。
※民法474条2項

3 一般的な第三者弁済

民法474条1項は,第三者弁済の基本的な一般論を規定しています。
一般的に第三者弁済は可能とした上で,例外も規定しています。

<一般的な第三者弁済>

あ 原則論

一般的に第三者が弁済をすることは可能である
ただし『い・う』のいずれかに該当する場合は第三者の弁済はできない

い 一身専属的給付(第三者弁済不可)

『その債務の性質がこれを許さないとき』(後記※1

う 第三者弁済禁止特約(第三者弁済不可)

『当事者が反対の意思を表示したとき』(後記※2

4 『その債務の性質がこれを許さないとき』の意味

第三者弁済が禁止される事情の1つは債務が一身専属的である場合です。
もともと決まっていた人以外の別の人では代行できないものです。

<『その債務の性質がこれを許さないとき』の意味(※1)

あ 『その債務の性質がこれを許さないとき』の解釈

債務が一身専属の給付を目的とする場合のこと
債務者自身が給付しなければ債務の目的である給付とみられないこと

い 具体例

ア 名優の演技イ 著名な学者の講演ウ 労働者の労働(民法625条2項)エ 受寄者の保管(民法658条1項後段)

5 『当事者が反対の意思を表示したとき』の意味

契約の最初から,あるいは契約の後に,当事者の両方が第三者弁済を禁止することに合意した場合は,当然,第三者弁済ができなくなります。

<『当事者が反対の意思を表示したとき』の意味(※2)

あ 『当事者が反対の意思を表示したとき』の基本的解釈

債権者と債務者との契約において,第三者の弁済を許さない旨の特約をしたこと

い 債権者の意思による禁止(不可)

債権者の単独の意思表示で第三者の弁済を禁じることはできない
※民法474条1項
※我妻榮ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法〜総則・物権・債権〜第3版』日本評論社2013年p884

金融機関の融資や,それ以外の多くの商用の類型的な契約では,契約において第三者弁済が禁止されています。

6 第三者弁済としての相殺

以上の説明は,第三者が通常どおりの弁済をする(金銭を払う)という前提でした。
これとは別に相殺をすることにより弁済したことにするというケースもあります。
相殺による第三者弁済については,状況によって認められることも認められないこともあります。

<第三者弁済としての相殺>

あ 前提事情

債権者Aが債務者Bに対して債権甲を有する
第三者Cが債権者Aに対して債権乙を有する

い 一般論としての相殺の可否

債権甲と債権乙は,相殺の要件である『相対立する債権』とはいえない
※民法505条1項
→否定すべきである

う 物上保証人による相殺の可否

第三者Cが物上保証人である場合
→物上保証人は保証人に準じる立場である
→相殺を肯定してもよい
※民法457条2項参照
※我妻榮ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法〜総則・物権・債権〜第3版』日本評論社2013年p884

え 第三取得者による相殺の可否

第三者Cが抵当不動産の第三取得者である場合
→相殺することはできない
※大判昭和8年12月5日

7 利害関係を有しない者による第三者弁済

民法474条2項では,利害関係を有しない者による第三者弁済を制限しています。
債務者の意思に反する場合だけが禁止されます。
第三者弁済が行われると,債権者との関係では債務が消滅しますが,弁済した第三者と債務者の間では,求償請求をする関係が残ります。
そこで,債務者には求償権を持つ者を選ぶ権利が与えられているのです。

<利害関係を有しない者による第三者弁済>

あ 基本的事項

『い・う』の両方に該当する場合
→第三者弁済はできない

い 利害関係者以外による弁済

弁済者が『利害関係を有しない第三者』(後記※3)である

う 債務者の意思に反する

第三者による弁済が債務者の意思に反する(後記※4
※民法474条2項

8 『利害関係を有しない第三者』の意味

利害関係を有する第三者であれば,債務者の反対があっても第三者弁済ができます(前記)。
利害関係を有する第三者とは,法律上(理論的に),弁済されないと不利益を受ける者というような意味です。

<『利害関係を有しない第三者』の意味(※3)

あ 『利害関係を有しない第三者』の基本的解釈

弁済をすることにつき法律上の直接の利害関係を有しない者

い 該当する具体例

ア 物上保証人イ 担保不動産の第三取得者ウ 担保不動産の賃借人・留置権者・後順位抵当権者 ※最高裁昭和39年7月1日
※我妻榮ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法〜総則・物権・債権〜第3版』日本評論社2013年p885

う 該当しない具体例

単に親戚関係にあるというだけでは利害関係があるとはいえない
※大判昭和14年10月13日;債務者の妻の姉妹の夫について

え 保証人・連帯債務者の弁済の扱い

保証人・連帯債務者の弁済について
→自身の債務(保証債務・連帯債務)の弁済である
→民法474条の弁済には該当しない
※民法474条2項
※我妻榮ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法〜総則・物権・債権〜第3版』日本評論社2013年p885

9 『債務者の意思に反して』の意味

利害関係を有しない第三者は,債務者の意思に反して弁済することはできません(前記)。
債務者の意思に関する解釈をまとめます。

<『債務者の意思に反して』の意味(※4)

あ 『債務者の意思に反して』の基本的解釈

第三者弁済が債務者の意思に反する

い 反対の意思の内容

債務者が実際に反対の意思を表示したことを要しない
諸般の事情から反対の意思が認定できればよい
※大判大正6年10月18日

う 立証責任

反対の意思の立証責任は反対の意思を主張する者にある
※大判大正9年1月26日

本記事では,第三者弁済に関する民法の規定と基本的な解釈を説明しました。
実際に債務者以外が弁済を希望するというのはレアな状況です。
つまり実務では,第三者弁済が単独で問題になることは少なく,普通は他の問題とセットで問題となっていることが多いのです。
実際に第三者弁済の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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