【低額譲渡(低廉売買)によるみなし贈与課税の基本(規定と実務的判断)】

1 低額譲渡によるみなし贈与課税
2 低額譲渡によるみなし贈与課税の規定
3 『著しく低い価額』の判断基準(概要)
4 相続税評価額での売買への低額譲渡課税の否定裁判例
5 第三者間取引における実務的な当事者の判断の尊重
6 当事者の合意を尊重する税法の規定や通達

1 低額譲渡によるみなし贈与課税

無償で財産譲渡することは贈与です。個人間での贈与には贈与税が課税されます。
この点,有償での譲渡でも贈与税が課税されることがあります。
その具体例の1つが,相場よりも著しく安い金額で売却した低額譲渡です。低廉売買と呼ぶこともあります。
本記事では,低額譲渡による贈与税の課税の基本的事項について説明します。

2 低額譲渡によるみなし贈与課税の規定

まず,低額譲渡に対して贈与税を課税すると規定する条文の内容を押さえておきます。

<低額譲渡によるみなし贈与課税の規定>

あ 低額譲渡の対象となる取引

『著しく低い価額』で個人が財産の譲渡を受けた場合
→贈与税が課税される

い 課税対象

財産の対価と時価との差額が課税対象となる
※相続税法7条本文

3 『著しく低い価額』の判断基準(概要)

低額譲渡として扱われるのは,売買の代金が著しく低い場合です。
まず,基準となる時価とは,通常の取引価額のことです。
どの程度低ければ低額譲渡になるかという判断には具体的な基準はありません。個別的に判断することになります。

<『著しく低い価額』の判断基準(概要)>

あ 時価

当該取得時における通常の取引価額に相当する金額

い 『著しく低い価額』の判断基準

個別具体的に判断される
例=取引の事情・取引当事者間の関係
詳しくはこちら|低額譲渡によるみなし贈与課税の基本的解釈(時価・著しく低い価額)

う 所得税のみなし譲渡所得税(参考)

所得税のみなし譲渡課税は,法令上,時価の2分の1未満の価額低額譲渡に該当する
詳しくはこちら|所得税におけるみなし譲渡所得課税(低額譲渡・所得税法59条)

4 相続税評価額での売買への低額譲渡課税の否定裁判例

現実の売買契約では,多くの事情によって金額が決まります。
平均的な相場とはずれた金額で取引が成立することはとてもよくあります。
そこで,通常であれば相場から離れた代金であっても低額譲渡として扱われることはあまりありません。
ただし,親族間の取引では,課税を逃れる傾向があるので,厳しく判断されます。
では具体的にどの程度まで相場からズレていてもよいのでしょうか。
これに関しては,時価の78%(22%低い)金額での売買について,裁判所が低額譲渡ではないと判断したケースがあります。
これが1つの参考(目安)となるでしょう。

<相続税評価額での売買への低額譲渡課税の否定裁判例>

あ 親族間の土地の売買

親族間で土地の共有持分の売買が行われた
代金額は相続税評価額と同額であった
この金額は時価の約78%であった

い 税務署による課税処分

税務署は『著しく低い価額』に該当すると判断した
→贈与税の課税処分をした

う 裁判所の判断

代金額は『著しく低い価額』には該当しない
贈与税の課税処分を取り消した
※東京地裁平成19年8月23日

5 第三者間取引における実務的な当事者の判断の尊重

実務では,売買契約に関して低額譲渡としてみなし贈与課税となるかどうかという問題は,とても重要な問題です。
この点,親族間ではなく,第三者間での取引であれば,原則的に課税の対象とならないという一般的な方向性があります。

<第三者間取引における実務的な当事者の判断の尊重>

あ 私的自治の原則

私的自治・契約自由の原則により
私人間の取引は任意性が保障されている

い 課税における私法関係準拠主義

特別の法制上の規制がない限り
行政当局など他の者がその取引に介入する余地は原則としてない
詳しくはこちら|私法の法律関係を前提として課税する(私法関係準拠主義)

う 第三者取引への課税の方向性

特殊関係者間での取引はともかくとして
利害の反する第三者間の取引については
課税当局によってその取引価格などが問題にされることはない
取引の結果についてのみ課税関係を判断すればよい
以上が一般的な認識である
※小池正明稿『第三者間取引に対する低額譲渡課税の問題点』/『税理48巻』2005年7月p7
※田代行孝稿『第三者間取引における低額譲渡』/『税理48巻』2005年11月p107;同趣旨

6 当事者の合意を尊重する税法の規定や通達

前記のように,第三者間取引では,当事者が決めた(合意した)金額は尊重されます。
このことは,相続税法の通達や他の税法の規定から読み取れます。

<当事者の合意を尊重する税法の規定や通達>

あ 固定資産の交換の特例の趣旨

固定資産の交換の特例(所得税法58条,法人税法50条)について
私人間の取引では,互いに利害得失を模索しながら取引条件が決定されることになる
税務上も当事者の合意を尊重するという趣旨である

い 相続税法基本通達7−2の趣旨

相続税法基本通達7−2も『あ』と同様の趣旨である
→相続税法7条(みなし贈与課税)についても当事者の合意が尊重される
※小池正明稿『第三者間取引に対する低額譲渡課税の問題点』/『税理48巻』2005年7月p12

なお,理論的には,第三者間取引でも,親族間取引と同様にみなし贈与課税の対象となることはあります。注意が必要です。
詳しくはこちら|低額譲渡によるみなし贈与課税の基本的解釈(時価・著しく低い価額)

実際には,親族間での遺産分割や共有物分割の解決の中で相場よりも低い金額での売買が行われることがよくあります。
このようなトラブル解決の中では,本記事で説明したような課税のことも考慮しないと新たな別のトラブルが生じてしまうことになります。
低額譲渡に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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