【違法収集証拠の証拠能力(判断基準・刑事と民事の違い)】
1 違法収集証拠の証拠能力(判断基準・刑事と民事の違い)
裁判では、証拠をもとに判断するのは当然ですが、違法な証拠は、証拠として使えない、という扱いがあります。専門的には違法収集証拠は証拠能力がない、といいます。
このルールですが、民事と刑事で違いがあります。
本記事では、違法収集証拠の証拠能力について、刑事と民事の両方を含めて、基本的なことを説明します。
2 刑事訴訟における証拠能力
刑事訴訟は、国民の人権を制限(制約)する手続なので、その根拠となる証拠はしっかりしたものである必要があります。そこで、証拠を制限するルールがいくつかあります。その中の1つが違法収集証拠排除法則です。
違法に収集された証拠は、内容に入る前に使えない、というルールです。
刑事訴訟における証拠能力
あ 刑事訴訟における証拠の扱いの方向性
刑事訴訟は、国家が私人の権利を制限する制度である
→証拠を厳格に制限する
→証拠能力として規定が整備されている
い 自白法則
(刑事訴訟では自白は証拠の1つである)
自白の証拠力は制限される
※刑事訴訟法319条
う 伝聞法則
伝聞証拠の証拠力は制限される
※刑事訴訟法320条〜328条
え 違法収集証拠排除法則
違法収集証拠の証拠力は制限される
※刑事訴訟法218条、317条
※多数の判例
3 刑事訴訟における違法収集証拠排除法則
刑事訴訟の違法収集証拠排除法則のルールの趣旨は、手続が適正でなければならないという根本的なルールに基づいています。
一方、このルールがあるからこそ、捜査機関が捜査の中で違法なことをしないよう注意するようになる、ともいえます。
刑事訴訟における違法収集証拠排除法則
あ 適正手続の保障
手続自体が適正であることが要請される
※日本国憲法31条、33条
い 将来の違法捜査の抑制
今後の違法捜査を抑止する効果がある
※最高裁昭和53年9月7日;違法収集証拠排除法則
※最高裁昭和61年4月25日;違法性承継論、同一目的直接利用
4 民事訴訟における証拠能力
民事訴訟法には、証拠能力に関する個別的規定はありません。つまり、形式面から証拠として使えないという条文はないのです。国家対国民、という構造ではないので、証拠を制限する必要性が小さいのです。
ただし、解釈上、状況によって証拠として使わないというルール、つまり
証拠能力を制限するルールはあります。
民事訴訟における証拠能力
あ 民事訴訟における証拠の扱いの方向性
民事訴訟は、私人間の紛争・利害調整である
→証拠の採否・評価は裁判官の裁量に委ねる
い 証拠方法の無制限
原則として証拠に制限はない
う 自由心証主義
裁判官が証拠の証明力を自由に評価する
※民事訴訟法247条
5 民事訴訟における違法収集証拠(概要)
民事訴訟では証拠のルールが緩いです(前述)。とは言っても一定の制限はあります。証拠を獲得した過程が常軌を逸している場合には証拠として認められない、ということもあります。なお、違法収集証拠排除法則という用語は刑事専用なので、民事訴訟では使いません(ただし本記事では、分かりやすさ優先のため、厳格な用語の使い分けはしないこととします)。
民事訴訟における違法収集証拠(概要)
例外的に、著しく反社会的な手段を用い、人の精神的、肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって収集された証拠は証拠能力を否定する
詳しくはこちら|民事訴訟における違法収集証拠の証拠能力(理論・基準)
6 違法収集証拠についての刑事と民事の比較
違法収集証拠を排除するルールについて刑事・民事を比較します。制度の趣旨(構造)が違うので、違法収集証拠の扱いも違うのです。民事の方が緩い、つまり多少の違法があっても排除されない、という傾向があります。
違法収集証拠についての刑事と民事の比較
あ 共通
違法な証拠が排除されることがあるという結論は共通である
い 構造と程度の違い
種類 | 構造 | 違法な証拠を排除する傾向 |
刑事訴訟 | 国家対国民(人権の制限) | 排除する傾向が強い |
民事訴訟 | 私人対私人(対等) | 排除する傾向は弱い |
7 夫婦間の証拠争奪の問題(参考)
民事において違法収集証拠が問題となる典型例の1つは夫婦間の証拠争奪戦です。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|夫婦間の証拠争奪戦と違法収集証拠(メール・手紙など)
実際には細かい事情で判断が大きく変わることが多いです。
本記事では、刑事訴訟と民事訴訟における違法収集証拠の扱いを全体的に説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に証拠に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。