【占有による推定と取得時効の立証責任】
1 占有による推定と取得時効の立証責任
2 占有による推定の規定
3 『平穏』の意味と推定
4 占有開始時の無過失と推定(否定)
5 推定と立証責任・反証
1 占有による推定と取得時効の立証責任
取得時効が成立するためにはいくつかの要件があります。
詳しくはこちら|取得時効の基本(10年と20年時効期間・占有継続の推定)
要件のうち大部分は,占有という事実によって推定されます。
これによって,取得時効の成立の立証は大きく影響を受けています。
本記事では,占有による推定の規定と取得時効の立証責任について説明します。
2 占有による推定の規定
まず,占有による推定を規定する条文の内容を押さえておきます。
<占有による推定の規定>
あ 条文規定(引用)
占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
※民法186条1項
い 規定内容の整理
占有によって『ア〜ウ』の事情が推定される
ア 所有の意思イ 善意ウ 平穏かつ公然
※民法186条
3 『平穏』の意味と推定
平穏は,取得時効の要件の1つです。
暴行や強迫によらない占有というような意味です。
平穏は,占有によって推定される事項の1つです。
<『平穏』の意味と推定>
あ 『平穏』の意味
『暴行or強迫』(の占有)に対する語である
い 推定の効果
占有の取得or保持に強暴(強迫)の行為がない限りは,それだけではその占有が平穏でない
ということにはならない
※大判大正5年11月28日
4 占有開始時の無過失と推定(否定)
取得時効の期間には10年と20年の2種類があります。
占有の開始の時点で占有者が自分の所有物だと信じて(誤信),かつ誤信に過失がない場合には短い10年が適用されます。
詳しくはこちら|取得時効の基本(10年と20年時効期間・占有継続の推定)
この過失がない誤信については,占有によって推定されることはありません。
間違えやすいので注意が必要です。
<占有開始時の無過失と推定(否定)>
民法186条1項によって無過失は推定されない
→期間10年の取得時効を主張する者は無過失を立証する必要がある
※最高裁昭和46年11月11日
5 推定と立証責任・反証
以上のように,占有という事実だけで多くの事項が推定されます。
この『推定』の意味は,『みなす』とは違います。
つまり,反対の事実の立証があればくつがえる,という状態です。
<推定と立証責任・反証>
あ 立証責任
(自主占有について)
取得時効の成立を争う者において占有者に『所有の意思』がないことを主張立証すべきである
※最高裁昭和54年7月31日
い 反証
民法186条1項の推定について
反する事実が証明されれば,推定はくつがえされる
※最高裁昭和58年3月24日
本記事では,占有による推定や取得時効の立証責任について説明しました。
実際には個別的な事情や立証のやり方次第で結果が大きく変わってきます。
実際に取得時効に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。