【住宅瑕疵担保責任履行確保法による被害者救済制度(資力確保措置)】
1 住宅瑕疵担保責任履行確保法による被害者救済制度
住宅品確法で、新築住宅の建築・売買に関する瑕疵担保責任が強化されています。
詳しくはこちら|住宅品確法の全体像(『新築住宅』の定義・3つの制度)
ただし、強化されているのは法的な責任だけです。
逆に言えば、実際に責任が生じた時に賠償金を払ってもらえるどうかは別問題です。
例えば売主や施工業者に資力がないとか倒産したようなケースでは、被害者が実際に賠償金を獲得することはできません。
このようなことを回避するために、住宅品確法とは別の履行確保法(後記)で、被害者の保護の制度が作られています。
本記事では、履行確保法による住宅取得者の保護の制度について説明します。
2 法律の名称と施行時期
履行確保法と略していますが、住宅瑕疵担保責任履行(確保)法などとよばれることもあります。
引渡しが平成21年10月以降である新築住宅が対象となっています。
法律の名称と施行時期
あ 法律の名称
特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律
当サイトでは『履行確保法』とよぶ
い 施行時期
平成21年10月1日以降に引き渡された新築住宅について
資力確保措置・紛争処理手続が適用される
3 履行確保法による資力確保措置の対象取引
履行確保法の制度が適用される取引は新築住宅の売買と建築請負契約に限定されています。
また、建築の施工業者が建設業者であるか、売主が宅建業者(宅地建物取引業者)であるものだけに限られます。
新築住宅とは要するに、新築(完成)直後から1年後までの間の住宅という意味です。
履行確保法による資力確保措置の対象取引
あ 対象取引
ア 新築住宅建築請負契約イ 新築住宅売買契約
『新築住宅』は、品確法の定義と同じである
詳しくはこちら|住宅品確法の全体像(『新築住宅』の定義・3つの制度)
※履行確保法2条1項、住宅品確法2条2項
い 適用される取引の当事者
『ア・イ』の両方に該当する
ア 請負人or売主が建設業者or宅建業者であるイ 注文者or買主が宅建業者ではない
法人・事業者であるかどうかは関係ない
※履行確保法2条5項2号ロ、2条6項2号ロ
4 履行確保法による資力確保措置の内容
履行確保法が適用される取引については、建設業者や宅建業者は資力確保措置を取る義務があります。
資力確保措置とは、保証金を供託するか、保険に入るという内容です。
履行確保法による資力確保措置の内容
あ 請負契約に関する資力確保措置
ア 義務者
新築注文住宅の建築に係る請負人(建設業者)
イ 措置の内容
『保証金の供託』or『住宅瑕疵担保保険加入』
※履行確保法3条
い 売買契約に関する資力確保措置
ア 義務者
新築建売住宅の売主(宅建業者)
イ 措置の内容
『保証金の供託』or『住宅瑕疵担保保険加入』
※履行確保法11条
実際に、受託取得者が被害者となってしまった場合は、この資力確保措置により救済されます。
5 資力確保措置による被害者の救済手続
被害者が資力確保措置を利用して救済を受ける手続を説明します。
そのためには、品確法による瑕疵担保責任が発生していることが前提です。
この場合は被害者は損害賠償を請求できる状態になります。
仮に建設業者や宅建業者が賠償金を払わなくても、被害者は供託された金銭を受け取るか、保険金の支給を受けることで救済されます。
資力確保措置による被害者の救済手続
あ 救済の対象となる瑕疵
『ア・イ』のいずれかの部分の瑕疵
ア 構造耐力上主要な部分イ 雨水の侵入を防止する部分
※品確法94条、95条
詳しくはこちら|住宅品確法による瑕疵担保責任の強化(基本構造部分は最低10年)
い 救済の対象となる損害賠償請求権
『あ』の瑕疵による損害賠償請求権を有する住宅取得者
う 救済の内容(概要)
ア 供託された保証金から優先的に弁済を受けるイ 住宅瑕疵担保保険の保険金の支給を受ける ※履行確保法9条1項、2項、16条、2条4項〜6項、3条1項、11条1項
6 履行確保法による救済手続の内容
実際に、品確法の瑕疵担保責任が発生して、被害者として履行確保法の救済を受ける場合には、一定の手続をとる必要があります。
この手続の細かい内容については、別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|住宅瑕疵担保責任履行確保法による供託金・保険金の請求手続と填補範囲
7 資力確保措置の届出義務
以上のように、建設業者や宅建業者は、新築住宅の建築や売却の際に資力確保措置をとっている義務があります。
これに違反して資力確保措置がとられていないと困るので、定期的に資力確保措置を行っていることを届け出ることが義務付けられています。
資力確保措置の届出義務
あ 届出の基準日
毎年3月31日・9月30日
い 届出義務の内容
保証金の供託・住宅瑕疵担保責任保険契約の締結の状況について
業者は国土交通大臣or都道府県知事に届け出る義務がある
※履行確保法4条
う 届出義務違反への制裁
業者が確保措置や届出を怠った場合
→基準日の翌日から50日を経過した日以降は
新築住宅の工事請負契約or売買契約の締結を禁じられる
※履行確保法5条、13条
え 契約締結禁止違反への罰則
『う』の禁止に違反した業者について
法定刑=懲役1年以下or罰金100万円以下
併科あり
※履行確保法39条、41条
8 資力確保措置についての説明義務
建設業者や宅建業者が資力確保措置をとっていても、新築住宅の取得者(施主や買主)がこれを知らないとスムーズに救済措置をとることができません。
そこで、新築住宅の請負契約や売買契約の締結の際に、資力確保措置の内容を説明することが義務付けられています。
資力確保措置についての説明義務
あ 供託による措置の説明義務
供託による資力確保措置を取っている業者は
請負契約or売買契約の締結までに
消費者(注文者or買主)に対して
保証金の供託をしている供託書の所在地などを記載した書面を交付する
※履行確保法10条、15条
い 保険による措置の説明義務
ア 建設業者
保険による資力確保措置を取っている建設業者は
請負契約の契約書に保険契約の内容を記載して告知する
※建設業法19条
イ 宅建業者
保険による資力確保措置を取っている宅建業者は
重要事項説明において保険締結の有無・内容の説明をして告知する
※宅建業法35条1項
詳しくはこちら|重要事項説明義務の基本(説明の相手方・時期・内容)
9 住宅紛争処理審査会による紛争処理(概要)
履行確保法では、以上で説明した資力確保措置とは別に、紛争処理の体制整備も規定しています。
これによって住宅紛争処理審査会が弁護士会に設置され、強力な紛争解決ができるようになっています。
詳しくはこちら|住宅紛争処理審査会による紛争解決手続(あっせん・調停・仲裁)
本記事では、履行確保法による新築住宅の取得者の救済制度を説明しました。
実際には、履行確保法の資力確保措置を利用するためには、瑕疵の立証が必要になります。瑕疵の判断は、高度に専門的な判断が必要になることが多く、単純ではありません。
実際に建物の瑕疵の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。