【情報の財物性・財産上の利益の内容と情報化体物の財物性】
1 情報の財物性・財産上の利益の内容と情報化体物の財物性
2 情報の『財物』性
3 『情報の窃盗』の否定例
4 情報化体物の『財物』扱いの実例
5 利得罪における『財産上の利益』
6 『財産上の利益』の主な3つの態様
1 情報の財物性・財産上の利益の内容と情報化体物の財物性
刑法における財産の扱いは,他の法律によるものと多少違った傾向があります。
具体的には犯罪行為(構成要件)の中で『財物』という用語が使われるものが多くあります。
詳しくはこちら|刑法の『財物』『物』の意味(有体性説・(物理的)管理可能性説)
『財物』には情報が含まれるかどうかという問題があります。
結論としては,情報自体は『財物』ではないけれど,情報が紙などの媒体に化体したものを全体として『財物』として扱うという解釈が一般的です。
本記事では,このようなテーマについて説明します。
2 情報の『財物』性
価値のある情報はいろいろとあります。しかし,刑法の適用・解釈としては,情報自体は『財物』には該当しないのです。
ただし,情報が載っている紙などの媒体は,価値のある物として『財物』に該当します。
<情報の『財物』性>
あ 『財物』該当性(否定)
情報自体は
いずれの立場をとっても財物ではない
い 情報の例
企業の秘密,ノウハウなど
う 化体物の財物性
情報を記録した文書,磁気テープ,フロッピーディスク,フォトコピーなど
→情報が化体(けたい)したものとしての財物である
※大判明治36年5月21日
※大谷實著『刑法講義各論 新版第4版補訂版』成文堂2015年p184
3 『情報の窃盗』の否定例
価値がある情報であっても,これを『財物』として認めなかったという分かりやすい裁判例を紹介します。
『財物』を奪ったとはいえないので,窃盗は成立させられませんでしたが,結局,背任罪は肯定されています。
<『情報の窃盗』の否定例>
外部のコンピュータに直接入力して情報を盗用する行為
→『窃盗』ではなく『背任』とした
※東京地裁昭和60年3月6日
4 情報化体物の『財物』扱いの実例
情報自体ではなく,価値のある情報が載った媒体は『財物』に該当します(前記)。
その具体例を紹介します。
<情報化体物の『財物』扱いの実例>
あ 機密情報を複写した紙
会社の機密書類を同社所有の複写機を使って複写した
これを社外に持ち出した
→全体的にみて,単なる感光紙の窃取ではなく,同社所有の複写した機密書類の窃取である
※東京地裁昭和40年6月26日
※東京高裁昭和60年12月4日;同趣旨(業務上横領罪成立)
い 大学入試問題用紙
『財物』として認めた
※東京高裁昭和56年8月25日
う 新薬の情報を複写した紙
開発中の新薬の情報を複写した紙について
『財物』として認めた
※東京地裁昭和59年6月15日
え マイクロフィルム
住民基本台帳閲覧用マイクロフィルム
『財物』として認めた
※札幌地裁平成5年6月28日
お 信用金庫の残高明細書
『財物』として認めた
※東京地裁平成9年12月5日
5 利得罪における『財産上の利益』
以上の説明は,『財物』という用語に関する解釈でした。
これとはまったく別に,構成要件として『財産上の利益』が含まれているものも多くあります。
このような構成要件(犯罪行為)は,当然,『財物』には該当しないけど『利益』には該当するものを奪うなどすれば成立します。『財物』に該当するかどうか,という解釈は不要となります。
<利得罪における『財産上の利益』>
あ 利得罪の意味
財産上の利益を客体とする財産犯である
※大谷實著『刑法講義各論 新版第4版補訂版』成文堂2015年p188
い 『財産上の利益』の意味
財物以外の財産上の利益の一切をいう
積極的財産の増加と消極的財産の減少の両方を含む
一時的利益も含む
※大谷實著『刑法講義各論 新版第4版補訂版』成文堂2015年p188
6 『財産上の利益』の主な3つの態様
例えば,暴行か脅迫によって『財産上の利益』を得た場合は強盗罪が成立します(刑法236条2項)。
財産上の利益を得るといえる具体的行為にはいろいろなものがあります。
大きく分類すると3種類があります。
<『財産上の利益』の主な3つの態様>
あ 財産処分の受領
ア 内容
相手方に一定の財産上の処分をさせる
イ 具体例
債務を免除させる
債務の履行期限を延期させる
い 労務提供の受領
ア 内容
相手方に対して一定の労務(役務)を提供させる
イ 具体例
タクシーや列車に乗車して運行させる
う 財産上の意思表示の受領
ア 内容
相手方に一定の財産上の意思表示をさせる
イ 具体例
土地所有権移転の意思表示をさせる
債務の負担を約束させる
※大谷實著『刑法講義各論 新版第4版補訂版』成文堂2015年p188