【ビットコイン強盗殺人事件と刑法上のビットコインの扱い】
1 ビットコイン強盗殺人事件と刑法上のビットコインの扱い
2 ビットコイン強盗殺人事件の内容
3 ビットコインの刑法上の法的扱い
1 ビットコイン強盗殺人事件と刑法上のビットコインの扱い
仮想通貨(ビットコイン)に関する刑事事件が報道されています。
課税とともに,ビットコインのホルダーが負うリスクとして,このような犯罪に巻き込まれることも指摘されています。
本記事では,ビットコイン強盗殺人事件の概要と,これに伴う刑法上のビットコインの扱いについて説明します。
2 ビットコイン強盗殺人事件の内容
ビットコイン強盗殺人事件の内容として報道された内容を整理します。
要するに,犯人(グループ)が,ビットコインを奪うためにビットコインホルダー(保有者)を襲撃して殺害したというものです。
<ビットコイン強盗殺人事件の内容>
あ 被害者の失踪と遺体の発見
平成29年春頃,ビットコインのセミナーが開催された
セミナーにおいて,被疑者Aと被害者Cが知り合った
平成29年6月,Cが失踪した
その後,Cの遺体が発見された
い 容疑内容
Aと別の被疑者(少年)Bが共謀してCを殺害し,現金・かばん・スマートフォンを奪った疑いがある
Aは,Cのビットコインを自身の口座に移し,現金化している
う 『口座』の意味(補足)
(口座とは,ウォレットの機能を持つ仮想通貨交換業者のサービス上の口座だと思われる)
え 逮捕
警察は,Aを強盗殺人容疑で(再)逮捕した
※産経WEST平成29年8月20日
3 ビットコインの刑法上の法的扱い
被疑事実(容疑内容)は,強盗殺人罪(刑法240条)とされています。
強盗殺人罪は強盗(刑法236条)を行ったことが前提となっています。
刑法236条1項の強盗罪の内容(構成要件)は,暴行によって他人の財物を強取したことです。
送金を受けた『ビットコイン』は,台帳上の記録(情報)です。一般的に価値のある情報として解釈されています。
詳しくはこちら|仮想通貨を『価値記録』とする公的見解(答弁書・中間報告・WG報告)
価値があっても,刑法上の解釈では情報自体は財物には該当しません。
詳しくはこちら|情報の財物性・財産上の利益の内容と情報化体物の財物性
そこで,ビットコインを奪ったことによっては,刑法236条1項の強盗罪は成立しません(現金やスマートフォンを奪ったことについては成立します)。
だからといって,ビットコインに関する強盗罪が成立しないという不合理な結果にはなりません。
財産上不法の利益を奪った場合でも刑法236条2項の強盗罪は成立するのです。
捜査機関は,ビットコインを『財産上不法の利益』として扱っていると思われます。