【信託行為の規定事項や委託者と受益者の合意による信託終了】

1 信託行為の規定事項や委託者と受益者の合意による信託終了
2 信託行為において定めた事項による信託終了
3 委託者からの財産分離が不完全であるケースの問題点
4 委託者からの財産の分離の完全性の問題
5 委託者と受益者の合意による信託終了
6 委託者不在の際の受益者による信託終了(否定)
7 信託行為の定めによる受益者の判断による信託終了

1 信託行為の規定事項や委託者と受益者の合意による信託終了

信託が終了する事由にはいろいろなものがあります。
信託の終了事由の中には,信託行為で定めた事由があり,また,委託者と受益者の合意で信託を終了させることもできます。
これらは,信託を設定した者や,関係の濃い者が信託をいつ終了させるかを決める(コントロールする)というものです。
本記事ではこれらについて説明します。

2 信託行為において定めた事項による信託終了

信託法の規定で,信託行為において定めた事項は,信託の終了事由の1つとなっています。
基本的に,信託を設定した者が自由に終了させるトリガーを設定することができるというものです。

<信託行為において定めた事項による信託終了>

あ 条文規定

信託の終了事由の1つとして
『信託行為において定めた事由が生じたとき』が規定されている
※信託法163条9号

い 定める事由の制限

自由に終了事由を定めることができる
ただし,不完全な委託者からの財産分離という問題がある(後記※1

う 定める事由の典型例

期間の定め

3 委託者からの財産分離が不完全であるケースの問題点

例えば,信託契約の中で,委託者がいつでも自由に信託を終了させられると規定した場合を考えてみます。
信託財産は委託者から受託者に移転しているはずですが,実態として委託者のコントロール下にあると思えます。この実態に着目した解釈の問題があります(後記)。

<委託者からの財産分離が不完全であるケースの問題点(※1)

あ 問題となる状況(前提事情)

『ア・イ』の両方に該当する
ア 自益信託(など) 委託者が自己を残余財産受益者or帰属権利者としている
イ 委託者の大きな裁量 委託者がいつでも自由に終了できると定めている

い 問題点

『あ』の場合,委託者からの財産分離が不完全である
と評価される可能性もある(後記※2
※道垣内弘人著『信託法(現代民法別巻)』有斐閣2017年p409

4 委託者からの財産の分離の完全性の問題

信託財産が委託者から完全に分離していないという実態が生じた場合,法的な問題があります。
委託者が強制執行から逃れることを許してしまうことになるのです。
しかし,本当にそのような不当な実態・実質がある場合は,代位行使などの規定や理論を使って強制執行が認められる傾向が強いでしょう。
そこで,委託者からの財産の分離の程度を理由にして信託を無効にすることはないという見解が一般的です。

<委託者からの財産の分離の完全性の問題(※2)

あ 前提事情

受益者が委託者と同一人である(自益信託)
委託者からの財産の分離が不十分である

い 妥当性

委託者は自らがコントロールできる財産をいわば安全地帯に置くことができることになる
→妥当ではない(信託を無効にすべき)
という価値判断もあり得る

う 信託の有効性

しかし,自益信託において委託者から財産が十分に分離されていない場合には
委託者の債権者による権利の代位行使や差押が認められるべきである
→信託を無効とする必要はないであろう
※道垣内弘人著『信託法(現代民法別巻)』有斐閣2017年p18

5 委託者と受益者の合意による信託終了

以上で,信託行為による定めによる信託終了を説明しました。
これとは別に,委託者と受益者が合意すれば信託が終了するという規定もあります。
信託の当事者の判断で信託を終了させるという意味では信託行為の定めによる信託終了と似ています。
以下,合意による信託の終了について説明します。
まず,規定の内容と趣旨をまとめます。

<委託者と受益者の合意による信託終了>

あ 条文規定

委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができる。
※信託法164条1項

い 趣旨

委託者と受益者は信託による利益を受ける者である(う)
→委託者・受益者が了解していれば,信託終了によって損害を受ける者はいない

う それぞれの当事者の利害

ア 委託者の立場 自ら設定した信託目的の達成について利益を有する
イ 受益者の立場 信託から利益を受ける
ウ 受託者の立場 信託から利益を受けることができない
※道垣内弘人著『信託法(現代民法別巻)』有斐閣2017年p409

6 委託者不在の際の受益者による信託終了(否定)

前記のように,委託者と受益者の両方の合意があれば信託を終了させられます。
では,委託者が存在しない状況では,残った受益者だけの判断で信託を終了させられるのでしょうか。
これだと,(既に存在しない)委託者が信託を設定した時の意思に反する可能性があります。そこで委託者が存在しない場合には,受益者の判断で信託を終了させることはできません。

<委託者不在の際の受益者による信託終了(否定)>

あ 規定内容

委託者が現に存しない場合
合意による終了(受益者の意思による終了)はできない
※信託法164条4項

い 趣旨(実質的な利害の状況)

受益者が信託終了を希望していたとしても
委託者の意思に反するおそれがある
※道垣内弘人著『信託法(現代民法別巻)』有斐閣2017年p409

7 信託行為の定めによる受益者の判断による信託終了

前記のように,信託法の規定で,受益者の判断(意思表示)で信託を終了させることはできないことになっています。
一方,信託行為の中で,積極的に,受益者の意思表示で信託を終了することができる,と規定しておいた場合はどうでしょうか。
もともと,信託行為の中では,原則的に自由に終了事由を規定することができます(前記)。
規定の趣旨から考えても,受託者の判断のみで終了させる(委託者を除外する)ことが制限されているとはいえないでしょう。
そこで,信託行為の中の定めとして受益者の意思表示で信託を終了させることも可能だと思われます。

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