【信託の受益権や残余財産の取得による相続税や贈与税の課税】
1 信託の受益権や残余財産の取得による課税
2 一般的な信託受益権の取得による課税
3 受益者指定による受益権の取得による課税
4 受益者連続型信託での受益権の取得による課税(概要)
5 信託終了に伴う残余財産の取得による課税
1 信託の受益権や残余財産の取得による課税
信託では,非常に自由度が高く財産管理の設計をすることができます。
実際に信託を設計する上では,課税の問題を十分理解して把握しておく必要があります。
本記事では,信託の受益権の取得や信託終了に伴う残余財産の取得について生じる相続税と贈与税の課税について説明します。
2 一般的な信託受益権の取得による課税
信託の受益権は経済的な価値があるといえます。
そこで,一般的に,無償で(適正な対価なく)受益権を取得した場合には贈与税か相続税が課税されます。
委託者の死亡に伴う場合には相続税で,それ以外(委託者の生存中)であれば贈与税となります。
<一般的な信託受益権の取得による課税>
あ 信託契約による受益権の取得
Aが信託契約により無償で受益者となった
→委託者から信託財産を贈与により取得したものとみなす
=Aには贈与税が課税される
い 委託者の死亡による受益権の取得
委託者の死亡により,Aが無償で受益者となった
→委託者から信託財産を遺贈により取得したものとみなす
=Aには相続税が課税される
※相続税法9条の2第1項
3 受益者指定による受益権の取得による課税
より柔軟な信託の設計として受益者指定(変更)権を活用するものがあります。
詳しくはこちら|受益者指定権・変更権を用いた信託の基本・具体例・課税
この場合,受益者が別の人に変更されることが生じます。
税務的には受益権が移転したという扱いをします。
無償で(適正な対価なく)受益権を取得した場合には贈与税が課税されます。
<受益者指定による受益権の取得による課税>
既に信託の受益者が存在していた
新たにAが無償で受益者となった
→(元)受益者から信託財産を贈与により取得したものとみなす
=Aには贈与税が課税される
※相続税法9条の2第2項
4 受益者連続型信託での受益権の取得による課税(概要)
受益者が変更になるのは,受益者指定(変更)権によるものだけではありません。受益者の死亡によって,別の者が受益者になるというものもあります。受益者連続型信託といいます。
この場合も,相続に伴う受益権の移転として捉え,相続税が課税されます。
詳しくはこちら|遺言代用信託(受益者連続型信託)の活用事例と相続税の課税
5 信託終了に伴う残余財産の取得による課税
信託が終了した時点で,残余財産(信託財産)は一定の者に引き渡す(帰属する)ことになります。
詳しくはこちら|信託終了時に残余財産が帰属する者(残余財産受益者・帰属権利者など)
無償で(適正な対価なく)残余財産を受け取った者は,相続税か贈与税が課税されます。
無償での財産(そのもの)の移転なので,(受益権と違って)常識的に理解できる課税です。
<信託終了に伴う残余財産の取得による課税>
あ 前提事情(共通)
Aが残余財産受益者or帰属権利者であった
信託の終了に伴いAが無償で残余財産の給付を受けることになった
い 委託者の死亡に伴う信託終了
委託者の死亡によって信託が終了した
→Aが残余財産の給付を受けることになった
→(元)受益者から残余財産を遺贈により取得したものとみなす
=Aには相続税が課税される
う 委託者の生存中の信託終了
『い』以外の状況で信託が終了した
→Aが残余財産の給付を受けることになった
→(元)受益者から残余財産を贈与により取得したものとみなす
=Aには贈与税が課税される
※相続税法9条の2第4項
本記事では,信託に関する受益権や残余財産の取得に伴う相続税・贈与税を説明しました。
信託を設計する段階ではこのような課税関係をしっかりと理解しておくことが必須です。また,実際に課税される状況でも,正確に理解して評価をして申告する必要があります。
実際に信託の設計をお考えの方や,課税に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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