【外国仮想通貨交換業者の日本国内居住者向け『勧誘』規制】
1 外国仮想通貨交換業者の『勧誘』規制
2 外国仮想通貨交換業者の勧誘の禁止の条文規定
3 資金決済法63条の2・2条7項の条文規定(参考)
4 外国仮想通貨交換業者の定義の条文規定
5 外国仮想通貨交換業者の『勧誘』禁止の趣旨
6 外国の交換業者に適用される日本の法規制(まとめ)
7 日本国内居住者向け『勧誘』や日本での営業の判断基準(概要)
8 仮想通貨交換業者以外の者の『勧誘』への加担
9 外国仮想通貨交換業者の日本での登録における緩和(概要)
1 外国仮想通貨交換業者の『勧誘』規制
資金決済法では外国仮想通貨交換業者が日本国内居住者向けの勧誘をすることが禁止されています。
この規定に関して,いろいろな誤解が生じやすいので,本記事では,この規制の全体的な説明をします。
2 外国仮想通貨交換業者の勧誘の禁止の条文規定
まず最初に,外国仮想通貨交換業者が勧誘をすることを禁止する規定を押さえます。
<外国仮想通貨交換業者の勧誘の禁止の条文規定>
あ 禁止規定
第63条の2の登録を受けていない外国仮想通貨交換業者は、国内にある者に対して、第2条第7項各号に掲げる行為の勧誘をしてはならない。
※資金決済法63条の22
い 罰則
直接的な罰則の規定はない
この中の『63条の2の登録』とは,日本での仮想通貨交換業者の登録のことです。日本のライセンスというと分かりやすいかもしれません。
『2条7項各号の行為』とは,要するに仮想通貨交換のサービスです。ビットコインと日本円の交換が典型例です。ビットフライヤーやコインチェック,ザイフなどが提供しているサービスのことです。
3 資金決済法63条の2・2条7項の条文規定(参考)
資金決済法63条の2と2条7項の規定自体を参考として紹介しておきます。前記で説明した,63条の22で使われている条文です。
<63条の2(仮想通貨交換業者登録)の条文規定>
あ 登録制
仮想通貨交換業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ、行ってはならない。
※資金決済法63の2
い 違反への罰則(参考)
『あ』の登録を受けないで仮想通貨交換業を行ったことについて
法定刑=懲役3年以下or罰金300万円以下
※資金決済法107条5号
<2条7項(仮想通貨交換業の定義)の条文規定>
この法律において『仮想通貨交換業』とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、『仮想通貨の交換等』とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいう。
一 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換
二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理をすること。
※資金決済法2条7項
4 外国仮想通貨交換業者の定義の条文規定
外国仮想通貨交換業者が日本国内居住者向けの勧誘をすることは禁止されています(前記)。
ところで,この外国仮想通貨交換業者の定義には要注目です。
<外国仮想通貨交換業者の定義の条文規定>
この法律において『外国仮想通貨交換業者』とは、この法律に相当する外国の法令の規定により当該外国において第63条の2の登録と同種類の登録(当該登録に類する許可その他の行政処分を含む。)を受けて仮想通貨交換業を行う者をいう。
※資金決済法2条9項
単に外国に本拠がある仮想通貨交換所(サービスを提供する事業者)という意味ではありません。
外国(日本以外の国や地域)で日本の仮想通貨交換業者登録に相当するライセンスを取得している事業者だけが該当するのです。
日本でもそれ以外の国でもライセンスを取得していない業者は外国仮想通貨交換業者に該当しません。この場合,勧誘禁止ルールは適用されません。
5 外国仮想通貨交換業者の『勧誘』禁止の趣旨
外国仮想通貨交換業者の勧誘を禁止する規定は,よく考えると分かりにくいところがあります。
ここはなぜこのようなルールが作られたか,という趣旨にさかのぼると理解しやすくなります。
<外国仮想通貨交換業者の『勧誘』禁止の趣旨>
あ 勧誘だけを禁止する趣旨
資金決済法63条の22が『勧誘』を行うことだけを禁止しているのは
資格のない者が仮想通貨の交換サービスを行うこと自体は資金決済法63条の2によって禁止されているためである
※堀天子著『実務解説 資金決済法 第3版』商事法務2017年p331
い 勧誘までも禁止する趣旨
外国仮想通貨交換業者が日本居住者にサービスを提供することは容易である
日本の仮想通貨交換業者登録をしないでサービス提供を行うことが予想される
サービス提供(本体)を阻止するために,それ以前の段階の行為を禁止する
※金融庁ヒアリング平成29年12月
まず,外国のライセンスを得ていてもいなくても,日本国内での仮想通貨交換サービス提供のためには日本のライセンスが必要です。
(日本国内でのサービス提供(営業)といえるかどうかは,実は判断が難しいです。これについては別の記事で説明します)
日本国内での仮想通貨交換サービスとは別の行為である勧誘も,追加して禁止するというものなのです。
6 外国の交換業者に適用される日本の法規制(まとめ)
以上のように,外国の仮想通貨交換所(事業者)に適用される日本の規制は分かりにくいところがあります。
簡単にまとめます。
勧誘禁止ルールが適用されるのは,外国でライセンスを得ている事業者のみです。
仮想通貨の交換サービスを日本で提供すること自体については,外国でのライセンスの有無に関係なく,日本のライセンス(仮想通貨交換業者登録)が必要,ということになります。
<外国の交換業者に適用される日本の法規制(まとめ)>
あ 共通事項(前提)
日本の仮想通貨交換業者登録なし
日本以外の国(エリア)で仮想通貨交換サービスを遂行している
い 適用される規制のまとめ
外国のライセンスの有無 | 日本居住者向け勧誘 | 日本居住者向けサービス提供 |
外国ライセンスあり | 違法・罰則なし | 違法・罰則あり |
外国ライセンスなし | 合法(※1) | 違法・罰則あり |
なお,※1は,勧誘について合法と記載しましたが,交換サービス自体は違法です。違法なサービスを勧誘することなので,違法行為に加担するという側面があります(後記※2)。
7 日本国内居住者向け『勧誘』や日本での営業の判断基準(概要)
外国仮想通貨交換業者は日本国内居住者向けの勧誘が禁止されます(前記)。
では次に,どのような行為が『勧誘』に該当するのか,という問題が出てきます。
この判断基準については,金融庁のガイドラインとして公表されたものがあります。典型例として,インターネット上の広告を挙げています。
詳しくはこちら|日本国内居住者向け『勧誘』の判断基準(外国仮想通貨交換業者)
このガイドラインは勧誘についての解釈として記載されていますが,日本国内居住者向けのサービス(日本での営業)の判断としても参考になります。日本での仮想通貨交換サービスの営業といえるための判断基準については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|日本国内居住者向け仮想通貨交換サービス(日本での営業)の判断基準
8 仮想通貨交換業者以外の者の『勧誘』への加担
資金決済法で禁止される勧誘は外国仮想通貨交換業者によるものだけです。
では,事業者以外の者が勧誘に関与することはまったく法的な問題を生じないのでしょうか。
法の適用・解釈としては,状況によっては関与した者の行為も違法となる可能性があります。
具体的に言えば,SNSでアフィリエイトとして紹介した投稿者が一定のフィーを得るということがあります。
まずこの投稿者は外国仮想通貨交換業者ではないので勧誘禁止ルールに抵触することはありません。
しかし関与の程度の評価によっては,媒介行為(無登録での仮想通貨交換業)と認定される,または(無登録の仮想通貨交換業の)幇助(犯)と認定されるという可能性があります。
<仮想通貨交換業者以外の者の『勧誘』への加担(※2)>
あ 勧誘禁止の主体(規定内容)
資金決済法63条の22により勧誘が禁止される者は
外国のライセンスはあるが日本の仮想通貨交換業者登録がない事業者だけである
事業者以外が『勧誘』することは禁止されていない
い 『媒介』という認定の可能性
『仮想通貨の売買・他の仮想通貨との交換』の『媒介』(を業として行うこと)も『仮想通貨交換業』に該当する
※資金決済法2条7項2号
(金商法では一定の関与を『媒介』と認定する実例が多くある)
仮想通貨交換業を登録なく行うことは違法(罰則あり)である
※資金決済法63条の2
う 『幇助犯』という認定の可能性
日本の仮想通貨交換業者登録のない事業者Aが日本で仮想通貨交換業を行うと違法となる
※資金決済法63条の2
Aによる違法行為を幇助した(手伝った)ことが幇助犯に該当する可能性がある
※刑法62条1項
詳しくはこちら|幇助犯・教唆犯|犯罪の手助け・そそのかしだけでも犯罪になる
9 外国仮想通貨交換業者の日本での登録における緩和(概要)
資金決済法における外国仮想通貨交換業者に関する規定は,以上で説明した勧誘禁止以外にもあります。
日本で仮想通貨交換業者登録をする場合の一定の緩和措置です。
現実的には緩和といえるほど大きなものではないと思います。
詳しくはこちら|外国仮想通貨交換業者の日本での仮想通貨交換業登録(要件の緩和)