【脅迫罪の『害悪の告知』(害悪の程度・害悪発生のコントロール可能性)】
1 脅迫罪の『害悪の告知』
2 脅迫罪の『害悪の告知』の意味
3 告知者による害悪発生のコントロール可能性
4 第三者を通した害悪の発生(間接脅迫)
1 脅迫罪の『害悪の告知』
脅迫罪(刑法222条)の構成要件の重要部分は『害悪の告知』です。
詳しくはこちら|脅迫罪・恐喝罪・強要罪の基本的事項と違い
実際にはある言動(セリフ)が『害悪の告知』に当たるかどうかが問題となることがあります。
本記事では,『害悪の告知』の意味や解釈について説明します。
2 脅迫罪の『害悪の告知』の意味
脅迫罪となる『害悪の告知』の基本的な基準は,人を畏怖させるというものです。これ自体は非常に単純です。
<脅迫罪の『害悪の告知』の意味>
あ 害悪の程度
告知される害悪の内容は,一般に人を畏怖させるに足りる程度のものでなければならない
い 恐怖心発生の要否(不要)
現実に被告知者に恐怖心が生じたことは必要ない
う 加害の内容の告知の要否(不要)
加害の具体的内容や加害の方法の告知は不要である
※大谷實著『刑法講義各論 新版第4版補訂版』成文堂2015年p86,87
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』2015年p76
3 告知者による害悪発生のコントロール可能性
人を畏怖させるものであれば脅迫罪の『害悪の告知』に該当します。
そして,人を畏怖させるといえるかどうかが問題となることがあります。
まず,告知した害悪の発生について,告知した人がコントロールできなければ,畏怖することはありません。
天災を告知することは脅迫罪に該当しないのです。
<告知者による害悪発生のコントロール可能性>
あ コントロール可能性
相手方を畏怖させるためには
告知者が害悪の発生を現実に左右できると一般の人が感じるものでなければならない
い コントロール不能な害悪の告知(警告)
告知者が支配し得ない害悪の告知(警告)について
→一般の人は畏怖しない
→脅迫に該当しない
う コントロール不能な害悪の例
害悪の例=天災,吉凶・禍福
告知の例=『天罰がくだる』という告知
※大谷實著『刑法講義各論 新版第4版補訂版』成文堂2015年p87
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』2015年p77
4 第三者を通した害悪の発生(間接脅迫)
第三者を通して害悪を発生させることによって脅す方法もあります。
結果的に,告知された者が畏怖するものであれば,害悪の告知といえるので,脅迫罪に該当します。
実際に実現させることができないとしても,セリフを言われた者が(一般人を基準として)畏怖する程度の内容であれば脅迫罪が成立するのです。
<第三者を通した害悪の発生(間接脅迫)>
あ 間接脅迫の判断基準
害悪が,告知者以外の第三者によって加えられるものとして告知した場合
告知者の直接or間接の影響力によって客観的に加害が実現しうるようなものであることを要する
い 実際のコントロール可能性
現実に害悪の発生を左右できる立場にある必要はない
う 虚無人による害悪発生
第三者は実在しない虚無人であってもよい
ただし,脅迫者は,相手方に対し,みずからその第三者を左右しうる地位にあることを明示的or黙示的に知らせる必要がある
※大谷實著『刑法講義各論 新版第4版補訂版』成文堂2015年p87
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』2015年p77
え 間接脅迫の具体例
『おまえを恨んでいるのは俺だけではない。ダイナマイトを仕掛けておまえを殺すと言っている者がいる』と告げる行為
→脅迫罪が成立する
※最高裁昭和27年7月25日