【電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)の条文と基本的解釈】

1 電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)の基本
2 電子計算機使用詐欺罪の規定内容
3 不実の電磁的記録の作出の行為態様
4 電磁的記録の供用の行為態様
5 『財産上不法の利益を得た』の例
6 電子計算機使用詐欺罪の実例(裁判例)
7 他人のクレジットカードの無断使用による電子マネー購入の例
8 2018年コインチェックNEMクラック事件(概要)
9 誤振込を受けた金銭のオンライン送金と電子計算機使用詐欺罪(概要)

1 電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)の基本

昭和62年の法改正で電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)が作られました。大雑把にいえば、人間ではなく、機械をだます”行為を罰するものです。
詳しくはこちら|電子計算機使用詐欺罪(刑法246条2項)新設(昭和62年改正)の経緯
本記事では、電子計算機使用詐欺罪の基本的な内容を説明します。

2 電子計算機使用詐欺罪の規定内容

まず、電子計算機使用詐欺罪の条文の規定を挙げます。内容としては、財産上の利益を不正に得る行為を犯罪とするものです。2つの行為態様に分かれています。

<電子計算機使用詐欺罪の規定内容>

あ 条文規定(引用)

(電子計算機使用詐欺)
第二百四十六条の二  前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。

い 構成要件

2つの行為態様が規定されている(後記※1、※2)
いずれも行為の客体は財産上の利益である(財物ではない)

う 法定刑

懲役10年以下

3 不実の電磁的記録の作出の行為態様

電子計算機使用詐欺罪に該当する行為態様の1つ目は、不実の電磁的記録を作出するというものです。
大雑把にいえば、機械をだまして経済的な価値のある記録を作ったというものです。典型例は(不正な入力により)預金残高を増やしたようなものです。

<不実の電磁的記録の作出の行為態様(※1)

あ 構成要件

電子計算機に虚偽の情報or不正な指令を与えて
財産権の得喪、変更に係る不実の電磁的記録を作った
財産上不法の利益を得た
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p251

い 『虚偽の情報』の意味

電子計算機を使用する当該事務処理システムにおいて予定されている事務処理の目的に照らし
その内容が真実に反する情報をいう
※東京高裁平成5年6月29日

う 『虚偽』の意味

情報それ自体が虚偽でなければならないわけではない
電磁的記録が不正に作出・改変された場合を含む
※東京地裁平成24年6月25日
※東京高裁平成24年10月30日;自動改札機を使用したいわゆるキセル乗車について肯定

え 『財産権の得喪、変更に係る電磁的記録』の意味

その作出・更新により事実上財産権の得喪、変更が直接的に生じる電磁的記録である
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p252

4 電磁的記録の供用の行為態様

電子計算機使用詐欺罪のうち、2つ目の態様は、大雑把にいえば、虚偽の情報を提供することによって不正なサービスを得た(受けた)というものです。
典型例は、偽造(変造)したテレホンカードで通話する(サービスの価値を得た)というものです。

<電磁的記録の供用の行為態様(※2)

あ 構成要件(実行行為)

財産権の得喪、変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供した
財産上不法の利益を得た
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p252

5 『財産上不法の利益を得た』の例

電子計算機使用詐欺罪の2つの行為態様に共通するのは、最終的に財産上不法の利益を得たことです。
不実記録の作出(1つ目の行為態様)と不正にサービスを得た(2つ目の行為態様)の典型例をまとめておきます。

<『財産上不法の利益を得た』の例>

あ 元帳への記録(不実記録の作出)

元帳ファイルに財産権の得喪or変更に係る不実の記録がされた(=財産権の処分を事実上なし得るような状況が生じた)
※東京地裁八王子支部平成2年4月23日;預金残高を増額させた行為

い プリペイドカードの利用(虚偽情報の提供)

プリペイドカードによるサービスを受けた
※前田雅英著『刑法各論講義 第6版』東京大学出版会2015年p253

6 電子計算機使用詐欺罪の実例(裁判例)

電子計算機使用詐欺罪が認められた典型的な実例を紹介します。

<電子計算機使用詐欺罪の実例(裁判例)>

あ 虚偽の振込情報の入力

銀行のオンラインシステムに虚偽の振込送金情報を与えて財産上不法の利益を得た
※名古屋地裁平成9年1月10日
※大阪地判平成8年12月6日(虚偽の振替入金)

い 虚偽の預入情報の入力

信用金庫支店長が、入金事実がないのに預金係にオンラインの端末機を操作させ、預金入金があったとする情報を与えた
※東京高裁平成5年6月29日
※千葉地判平成5年3月18日(同種行為)
※東京地判平成7年3月1日(同種行為)
※東京地判平成7年12月26日(同種行為)

う 残額減少回避プログラム(打ち出の小槌方式)

プログラムを改変して預金を引き出しても残額が減少しないようにした
※大阪地裁昭和63年10月7日

7 他人のクレジットカードの無断使用による電子マネー購入の例

少し変わった実例として、他人のクレジットカードを無断で使用することによって電子マネーを購入したケースがあります。
使用した(機械に入力した)情報は、実際に存在する特定の者の持つクレジットカードの情報です。
実在するカードの情報なので、情報自体が不実・虚偽とはいえません。
しかし、最高裁はカード保有者が関与していない(無断であった)ことを理由として、虚偽の情報の入力であると判断しました。
結果として、電子計算機使用詐欺罪の成立を認めました。

<他人のクレジットカードの無断使用による電子マネー購入の例>

あ 事案

ネット取引の決済に用いる電子マネーの購入手続として
Aは、他人Bのカード番号などの情報を入力送信した
A名義の電子マネーを購入した(ことになった)

い 構成要件該当性の判断

Bは実際には購入手続をしていない
→Aがクレジットカード情報などを入力した行為は、虚偽の情報の入力にあたる
Aが電子マネーを購入した内容の情報は財産権の得喪に係る不実の電磁的記録である
電子マネーの利用権を取得した=財産上不法の利益を得た

う 結論

電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)が成立する
※最高裁平成18年2月14日

8 2018年コインチェックNEMクラック事件(概要)

電子計算機使用詐欺罪にストレートに該当する新しい実例が発生しています。
仮想通貨のウォレットに不正にアクセスして(ハッキング・クラッキング)、仮想通貨を盗むというものです。
電子計算機使用詐欺罪の条文(刑法246条の2)を作った当時は想定していなかったことですが、結果として、仮想通貨の盗難にあてはまるのです。
詳しくはこちら|電子計算機使用詐欺罪(刑法246条2項)新設(昭和62年改正)の経緯

9 誤振込を受けた金銭のオンライン送金と電子計算機使用詐欺罪(概要)

電子計算機使用詐欺罪が成立するケースの1つの類型として、誤振込を受けた金銭(預金)をオンラインバンキングで送金する、というものがあります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|誤振込を受けた者の引出行為と窃盗・詐欺・電子計算機使用詐欺罪

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【電子計算機使用詐欺罪(刑法246条2項)新設(昭和62年改正)の経緯】

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