【電子計算機使用詐欺罪と他の罪(不正アクセス・背任罪)との関係】
1 電子計算機使用詐欺罪と他の罪との関係
2 不正アクセス罪と電子計算機使用詐欺罪の罪数関係
3 不正アクセス罪と電子計算機使用詐欺罪の罪数処理結果
4 背任行為と電子計算機使用詐欺罪の関係
1 電子計算機使用詐欺罪と他の罪との関係
機械を騙して利益を不正に得るような行為は電子計算機使用詐欺罪にあたります。
詳しくはこちら|電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)の条文と基本的解釈
実際には,電子計算機使用詐欺罪にあたる行為は,同時に不正アクセス禁止法違反や背任罪にも該当することがよくあります。
本記事では,電子計算機使用詐欺罪と他の罪との関係について説明します。
2 不正アクセス罪と電子計算機使用詐欺罪の罪数関係
外部からインターネットを介して不正にサーバーにアクセスすることにより,不正に預金などの財産を得るという行為(ハッキング)があります。
これは,不正アクセス禁止法違反と電子計算機使用詐欺罪の両方に同時に該当します。この2つの罪は観念的競合となります。
<不正アクセス罪と電子計算機使用詐欺罪の罪数関係>
あ 前提行為
Aは他人BのネットバンキングのIDとパスワードを盗用した
Bの口座からAの口座に振込送金をする操作を行った
い 該当する構成要件
1個の行為が不正アクセス罪と電子計算機使用詐欺罪に該当する
う 罪数関係
2つの罪の関係は観念的競合となる
※刑法54条1項前段
※不正アクセス対策法制研究会編著『逐条 不正アクセス行為の禁止等に関する法律 第2版』立花書房2012年p156,157
3 不正アクセス罪と電子計算機使用詐欺罪の罪数処理結果
ハッキング行為が,不正アクセス禁止法違反と電子計算機使用詐欺罪の観念的競合となることがあります(前記)。
この場合には,2つの法定刑のうち重い方の範囲内で処断することになります。電子計算機使用詐欺罪の方が重いので,こちらの法定刑が上限(処断刑)となります。
<不正アクセス罪と電子計算機使用詐欺罪の罪数処理結果>
あ 不正アクセス罪の法定刑
懲役3年以下or罰金100万円以下
※不正アクセス禁止法3条,11条
い 電子計算機使用詐欺罪の法定刑
法定刑=懲役10年以下
※刑法246条の2
う 観念的競合の適用結果
もっとも重い刑により処断する
→懲役10年以下で処断する
4 背任行為と電子計算機使用詐欺罪の関係
前記とは別に,会社の内部の者が,金銭を扱うサーバーに不正な操作を行うケースがあります。
この行為が任務に反するものであれば,背任罪が成立します。
詳しくはこちら|背任罪の基本(条文と背任行為の各要件の解釈・判断基準)
一方,一応ですが,形式的に操作を行う権限があるはずなので,虚偽の情報を機械に入力したことにはなりません。
結局,電子計算機使用詐欺罪の方は成立しないことになります。
<背任行為と電子計算機使用詐欺罪の関係>
あ 事案
金融機関の貸付の担当者が不良貸付を行った
具体的には,コンピュータ端末を操作する振替入金によって行った
い 成立する罪
背任ではあっても貸付が一応民事上有効であれば
この操作は資金的実体を有する
『虚偽の情報』ではない
→電子計算機使用詐欺罪は成立しない
背任罪だけが成立する
※東京高裁平成5年6月29日