【建物賃貸借の更新料条項を有効とした平成23年最高裁判例】
1 建物賃貸借の更新料条項の有効性を認めた平成23年最高裁判例
建物賃貸借の契約の中に更新料を支払う条項(特約)が入っていることが多いです。以前は、無効という見解もありました。
しかし、平成23年の最高裁判例で、一般論として有効であることが示されました。実務では更新料条項の有効性判断基準として使われています。
詳しくはこちら|建物賃貸借の更新料特約の有効性判断基準と不払いによる解除の効力
本記事では、建物賃貸借の更新料に関する平成23年の最高裁判例を説明します。
2 更新料の性質
ところで、更新料の法的性質としては、いろいろな内容が主張されていました。
平成23年判例でも、従前の議論と同じように、賃料の前払、賃貸借契約を継続する対価、などの複数の性質が含まれることが示されました。
更新料の性質
※最判平成23年7月15日
3 消費者契約法10条の2つの要件
平成23年判例で前提となった事案は、賃借人が消費者にあたる者(非事業者個人)でした。そして、消費者契約法10条によって無効になるという主張がなされたのです。
まずは、消費者契約法10条で無効となる要件を2つ(前段と後段)に分けて整理します。
消費者契約法10条の2つの要件
あ 前段要件
条項が民法などの任意規定の適用(※1)による場合に比し
消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する
い 後段要件
条項が民法1条2項に規定する基本原則、すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害している(※2)ものである
う 効果(条項の無効)
条項は無効となる
※消費者契約法10条
4 前段要件・後段要件の解釈
消費者契約法10条で無効となる2つの要件(前記)の解釈には、いくつかの見解がありました。平成23年判例は、この解釈を特定しました。
前段要件・後段要件の解釈
なお、後段要件については、民法1条2項(信義誠実の原則)との関係について2つの解釈があります。
詳しくはこちら|消費者契約法10条と民法1条2項の関係(確認説と創造説)
平成23年判例ではこの解釈論までは踏み込んでいません。
5 更新料条項についての消費者契約法10条の判断
消費者契約法10条の要件に関する前記の解釈を前提として、更新料条項の有効性について、平成23年判例では一般的な基準を示しました。
大雑把にいうと、更新料の額が条項としてハッキリ明示されていて、かつ、高額過ぎない、という2つのハードルをクリアすれば、更新料条項は有効となるというものです。
更新料条項についての消費者契約法10条の判断
あ 前段要件の充足性
更新料条項は
賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせている
→任意規定の適用に比し、消費者である賃借人の義務を加重するものである
い 後段要件の充足性
ア 経済的合理性
更新料条項は
更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないわけではない
詳しくはこちら|建物賃貸借の更新料の意味と法的性質(複合的性質)
イ 情報・交渉力の格差
更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、賃借人と賃貸人の間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に、賃借人と賃貸人との間に更新料条項に関する情報の質・量、交渉力について大きな格差はない
う 効果(更新料条項の有効性)
賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約書が更新される時期などに照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう『一方的に害する』にはあたらない
→(特段の事情がない限り)更新料条項は有効である
※最高裁平成23年7月15日
6 個別的な契約内容(更新料などの条項)
平成23年判例では、前記の更新料条項の有効性の判断基準を使って、前提となる事案の内容を元にして有効性の判断をします。
判断のベースとなった契約内容のうち主なものをまとめます。
個別的な契約内容(更新料などの条項)
あ 賃料
月額3万8000円
い 定額補修分担金
賃借人は、建物退去後の原状回復費用の一部として12万円の定額補修分担金を支払う
う 更新料条項
賃借人は、賃貸借契約を更新する時は、法定更新であるか、合意更新であるかに関わりなく、1年経過するごとに、賃貸人に対し、更新料として賃料の2か月分を支払う
賃貸人は、賃借人の入居期間に関わりなく、更新料の返還、精算には応じない
※最高裁平成23年7月15日
7 個別的な契約内容による更新料条項の有効性判断
前記のように、このケースでの更新料は、賃料2か月分で1年毎に発生するというものでした。
裁判所は結論として、契約書に明示されていて、かつ、高額過ぎないといえると判断しました。
なお、消費者契約法10条以外に、借地借家法30条も問題となっていました。借地借家法30条は、一定の賃借人に不利な条項を無効とするものです。
これについても、裁判所はこれに該当しない(そこまで賃借人に不利ではない)と判断しました。
結論として、更新料条項は有効となりました。
個別的な契約内容による更新料条項の有効性判断
あ 消費者契約法10条の要件充足性
契約書に一義的かつ明確に更新料が記載されている
特段の事情はない
→消費者契約法10条により無効とすることはできない
い 借地借家法30条の該当性
更新料条項は、借地借家法30条にいう『同法第3章第1節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なもの』ということもできない
→借地借家法30条により無効とすることはできない
※最高裁平成23年7月15日
8 有効性判断基準と消費者という属性の関係
ところで、前記の更新料条項の有効性判断基準のベースとなっているのは消費者契約法10条の適用でした。
当然、賃借人が消費者契約法上の消費者であることが前提です。そうすると、賃借人が事業者や法人である場合には、この判断基準は使えないのではないかという疑問も生じます。
しかし結論としては、賃借人が消費者でもそれ以外でも、判断の枠組みは変わらないと考えられています。
有効性判断基準と消費者という属性の関係
あ 判例の前提=消費者契約法の適用
平成23年判例は消費者契約法が適用されることが前提である
=賃借人が消費者に該当するケース
詳しくはこちら|消費者契約法|基本|定義・不当勧誘行為・不当条項・差止請求
い 賃借人の属性による影響
賃借人が消費者に該当しない場合
=事業者・法人ということである
→消費者契約法は適用されない
→しかし民法1条2項(信義誠実の原則)は適用される
詳しくはこちら|信義則(信義誠実の原則)と権利の濫用の基本的な内容と適用の区別
(消費者契約法10条の解釈(確認説・創造説)の違い(前記)も関係するが)
→結論として判断の枠組みに実質的な違いはないと思われる
※『最高裁判所判例解説民事篇 平成23年度(下)』法曹会2014年p556
本記事では、建物賃貸借の更新料条項を有効と判断した平成23年の最高裁判例を説明しました。
実際には、個別的な事情によって判断が大きく変わってきます。
実際に更新料の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。