【消費者契約法10条と民法1条2項の関係(確認説と創造説)】
1 消費者契約法10条と民法1条2項の関係
2 消費者契約法10条と民法1条2項の条文
3 消費者契約法10項後段要件の2つの見解
4 2つの見解による違い
1 消費者契約法10条と民法1条2項の関係
消費者契約法10条は,一定の不当な契約上の条項を無効とするものです。
詳しくはこちら|消費者契約法|不当条項|事業者の責任免除・消費者の負担加重
実際に,いろいろなサービスで用いる規約などの中の条項がこれに該当するかどうかを検討することがよくあります。ここで,消費者契約法10条の条文の中には民法1条2項が登場しますが,この関係(解釈)をはっきりと理解することは難しいです。
本記事では,消費者契約法10条と民法1条2項の関係について説明します。
2 消費者契約法10条と民法1条2項の条文
まず,問題となる2つの条文をそのまま示します。
<消費者契約法10条と民法1条2項の条文>
あ 消費者契約法10条
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
※消費者契約法10条
い 民法1条2項
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
※民法1条2項
3 消費者契約法10項後段要件の2つの見解
消費者契約法10条の後段に,民法1条2項が登場します。
民法1条2項は信義誠実の原則です。この内容は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|信義則(信義誠実の原則)と権利の濫用の基本的な内容と適用の区別
消費者契約法10条と民法1条2項の関係は条文にはっきりと書いてないので,2つの解釈があります。
<消費者契約法10項後段要件の2つの見解>
あ 問題の所在
消費者契約法10条の中の
『民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの』の解釈には,『い・う』の2つがある
い 確認説
民法によって無効とされるものと同じ範囲(で無効とする)
=民法1条2項に反しないものは消費者契約法10条によって無効となることはない
※消費者庁企画課編『逐条解説消費者契約法 第2版』p222
※『消費者契約法(仮称)の具体的内容について』消費者契約法検討委員会平成11年11月(立法の経緯)
う 創造説
民法では無効とされない条項をも無効とする
※日本弁護士連合会編『コンメンタール消費者契約法 第2版』p191
※山本敬三『消費者契約法の意義と民法上の課題』/『民商法雑誌123巻4=5号』p541
4 2つの見解による違い
前記のように,消費者契約法10条(の後段要件)の解釈には2つの見解があります。
確認説は,無効とする範囲が民法1条2項(信義誠実の原則)と同じです。
一方,創造説は,民法1条2項よりも広いです。
これだけを見ると,創造説の方が条項を無効にしやすいといえるはずです。しかし,実際の違いはそれほどありません。
<2つの見解による違い>
理論的には創造説の方が,無効とする範囲が広い
実際には,説によって結論に顕著な差が生じるとは考えにくい
※『最高裁判所判例解説民事篇 平成23年度(下)』法曹会2014年p556