【信頼関係破壊による催告と本質的義務違反なしの解除の理論と判断基準】

1 信頼関係破壊による催告と本質的義務違反なしの解除の理論と判断基準
2 信義則上の義務違反による無催告解除(判例の引用)
3 信義則上の義務違反による無催告解除の特徴
4 信義則上の義務違反による解除の理論の意義
5 信義則上の義務やその違反の判断基準

1 信頼関係破壊による催告と本質的義務違反なしの解除の理論と判断基準

賃貸借契約の解除に関する理論として信頼関係破壊理論(背信行為論)があります。信頼関係破壊理論の効果にはいろいろなものがありますが,その中に無催告で解除できる・本質的な義務の違反がなくても解除できるというものがあります。
詳しくはこちら|信頼関係破壊理論と背信行為論の基本(同質性・主な3つの効果)
本記事では,信頼関係破壊理論によって催告も本質的義務違反もないのに解除できるという理論と判断基準について説明します。

2 信義則上の義務違反による無催告解除(判例の引用)

賃貸借契約の本質的な義務ではなく,信義則上の義務違反にすぎないのに,しかも催告なしで解除を認めるという理論(信頼関係破壊理論)は,多くの判例によって確立しています。
代表的な判例の1つの中の解釈の中心部分をみると理解しやすいです。判例を引用します。

<信義則上の義務違反による無催告解除(判例の引用)>

賃貸借契約の当事者の一方が,契約に基づき信義則上当事者に要求される義務に違反して,信頼関係を破壊することにより,賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめたときは,他方の当事者は,催告なくして賃貸借契約を解除することができる
※最高裁昭和47年11月16日

3 信義則上の義務違反による無催告解除の特徴

信頼関係破壊理論によって,無催告で解除を認める理論(前記)の特徴を整理します。
逆に,ノーマルな債務不履行解除では本質的な義務の違反催告が必要です。
これと比較すると,この両方を不要としていることが非常に特殊であることが分かるでしょう。

<信義則上の義務違反による無催告解除の特徴>

あ 本質的義務違反なしでの解除

賃貸借契約の本質的な義務の違反以外の行為も解除の原因となる
ただし,信頼関係破壊自体解除原因となるわけではない(判例・通説)
賃借人の債務不履行,義務違反,特約違反を通じて信頼関係破壊が解除原因(民法541条)となる
※『最高裁判例解説民事篇 昭和50年度』法曹会1979年p48

い 催告不要

もはや信頼関係が破壊されている時には催告をする実益がない
催告を要しない
無催告解除特約の有無とは関係がない
※最高裁昭和27年4月25日
※最高裁昭和42年3月30日
※最高裁昭和50年2月20日
※『最高裁判例解説民事篇 昭和50年度』法曹会1979年p48
※山本敬三『民法講義4−1』有斐閣p474

う 債務不履行解除の要件(比較)

一般的な債務不履行解除では
(本質的な)債務の不履行+催告が必要である
※民法541条

4 信義則上の義務違反による解除の理論の意義

信頼関係破壊理論は,前記のように信義則上の義務違反を理由に解除を認めます。
現実的な影響を考えると,要するに2つの実質的な意味があります。つまり,解除の原因を拡大しつつ,一方で(拡大を)制限するというものです。

<信義則上の義務違反による解除の理論の意義>

あ 解除の原因の拡大

義務違反を若干拡大する結果になるが,賃貸借契約の要素をなす(本質的)義務のみならず,賃貸借契約に基づいて信義則上要求される義務に違反する行為をも,一種の債務不履行と認めた

い 解除の原因の限界

契約に基づき信義則上当事者に要求される義務の違反が前提である
→背信行為が契約と無関係なものである場合は,これを解除原因から排除するという限界を画する意味がある(後記※1
※『最高裁判例解説民事篇 昭和47年度』法曹会1974年p433

5 信義則上の義務やその違反の判断基準

信頼関係破壊理論は,信義則上の義務の違反だけでも解除を認めるものです。
そこで,実務では,ある行為が信義則上の義務違反といえるかどうかという判断(評価)でとても大きな結論の違いが生じることになります。
つまり,信義則上の義務とは何か,また,その義務の違反とはどのような行為のことかという基準が結論を決めることになります。
判例は明確な基準を示しているわけではありません。この点,一般的には賃貸人に損害や迷惑が生じるということが目安(基準)となります。
逆に,純粋な個人的・人格的な事項については賃貸借と関わりがないため,信義則上の義務違反とはなりません。
このような基準を前提としても,実務では(当然ですが)明確に判断できない事例がとても多いです。

<信義則上の義務やその違反の判断基準>

あ 信義則上の義務の範囲

賃借人は,賃貸人が客観的に損害や迷惑を受けるような行為をしないという信義則上の義務がある

い 義務違反を認める要点

信義則条要求される義務の違反の有無の判断(評価)について
要点は,賃借人の反社会的行為が賃貸人にとって何らかの損害や迷惑となるかどうかにある
※『最高裁判例解説民事篇 昭和47年度』法曹会1974年p434

う 義務違反が否定される事情の例(※1)

賃借人の個人的,人格的非違は賃貸借契約の信義則上の義務違反にはならない
※『最高裁判例解説民事篇 昭和50年度』法曹会1979年p47

本記事では信頼関係破壊理論により本質的な義務の違反なし,かつ催告なしで解除を認める解釈と判断基準について説明しました。
実際には,細かい個別的な事情の主張・立証によって判断(結論)が大きく変わってきます。
実際に賃貸借契約の解除の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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