【信託の変更の基本(信託内容を変更できる要件のバリエーション)】
1 信託の変更の基本(変更の要件のバリエーション)
2 信託の変更の意味と規定(信託法149条)の趣旨
3 信託の変更の要件(原則・1項)
4 信託の変更の要件(委託者の関与なし・2項)
5 信託の変更の要件(受託者の関与なし・3項)
6 信託の変更の要件(別段の定め・4項)
7 信託の変更の内容の制限(概要)
1 信託の変更の基本(変更の要件のバリエーション)
信託の内容を変更することは認められています。
信託の変更をする要件,つまり,誰が決定できるのか,ということについてはいくつかのバリエーションがあります。
本記事では,信託の変更の要件について説明します。
2 信託の変更の意味と規定(信託法149条)の趣旨
信託法149条で,信託の変更の要件が細かく定められています。
そもそも,現行の信託法が信託の変更を認める実質的な理由(趣旨)は,状況の変化に応じて信託の内容を適切なものに保つというものです。
<信託の変更の意味と規定(信託法149条)の趣旨>
あ 信託の変更の意味
信託行為(信託契約)の内容を変更すること
い 信託の変更の規定(信託法149条)の趣旨
信託がなされた時点においては予想できない事態が生じることもありえる
信託の事後的変更を柔軟に行うことができるようにするとともに,委託者と受益者の利益を適切に確保しようとした
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p636
3 信託の変更の要件(原則・1項)
信託の変更の要件の原則的なものは,委託者・受託者・受益者の全員が同意するというものです。1人でも反対したら変更できないという状況になります。
<信託の変更の要件(原則・1項)>
あ 変更の要件
委託者・受託者・受益者の3者の合意により信託の変更ができる
※信託法149条1項
い 複数人の受益者の扱い
ア 原則
受益者が2人以上あるときは,すべての受益者の同意が必要である
イ 例外
信託行為に別段の定めがあるときはこれに従う
※信託法105条1項,2項
受益者集会における多数決による旨の定めがある場合
→議決権の過半数出席+出席受益者の議決権の3分の2以上で可決となる
※信託法113条2項4号
4 信託の変更の要件(委託者の関与なし・2項)
原則として信託の変更をするには,3つの立場の当事者全員の同意が必要です(前記)。しかし,ここまで要求しなくても,つまり変更を緩く認めることが望ましい状況があります。
このような例外的なパターンの1つが委託者の関与なしで変更できるというものです。主に信託の目的に反しないということが条件(要件)となります。
<信託の変更の要件(委託者の関与なし・2項)>
あ 信託変更の要件
状況 | 信託の変更の要件 |
信託の目的に反しないことが明らかである | 受託者と受益者の合意 |
信託の目的に反しないこと+受益者の利益に適合することが明らかである(い) | 受託者の判断(意思表示) |
※信託法149条2項
い 受益者の利益適合の意味
『受益者の利益に適合すること(が明らかである)』とは
単に受益者の利益を害しないことではない
より積極的に受益者の利益を増進させることを意味するものと推測される
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p637
5 信託の変更の要件(受託者の関与なし・3項)
例外的に信託の変更の要件が緩和されるパターンとして受託者の関与なしで変更できるというものがあります。
主に,受益者の利益を害しないことが要件となります。
<信託の変更の要件(受託者の関与なし・3項)>
あ 信託変更の要件(判断者)
状況 | 信託の変更の要件 |
受託者の利益を害しないことが明らかである | 委託者と受益者の合意(い) |
信託の目的に反しないこと+受託者の利益を害しないことが明らかである | 受益者の判断(い) |
※信託法149条3項
い 効力発生の要件
(判断権者による)意思表示が受託者に到達した時に,変更の効力が生じる
※民法97条1項
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p638
6 信託の変更の要件(別段の定め・4項)
例外的に信託の変更の要件が緩和されるパターンとして信託行為(信託契約)の中で変更の要件を定めておくというものがあります。
設計の自由度が高いという信託の特徴を活かした方法です。
<信託の変更の要件(別段の定め・4項)>
あ 信託変更の要件(規定内容)
信託の変更について信託行為に別段の定めがあるときは,その定めるところによる
※信託法149条4項
い 別段の定めの具体例
ア 特定の第三者に対して信託の変更を委任する(※1)イ 通知義務を免除するウ 委託者の同意を要しないものとするエ 受益者の同意を要しないものとするオ (受託者の関与が不要なケースにおいて)受託者の同意を必要とする ※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p638,639
う 第三者による変更の制限
第三者が信託の変更をする(前記※1)場合に
信託を変更できる範囲について
→特に制限は設けられていない
※道垣内弘人編著『条解 信託法』弘文堂2017年p639
7 信託の変更の内容の制限(概要)
以上のように,信託の変更は法律上認められていますし,また,実務では活用する(設定時に規定を作っておく)ケースが多いです。
ところで,信託の内容を変更できることには一定の制限があります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|信託の変更の内容の制限(信託内容を変更できる限界)
本記事では,信託の変更の基本的内容について説明しました。
実際には,信託契約の設計の段階で,いろいろな状況変化を見越して変更に関する規定をしっかりと作っておかないと,後で思うように変更できずに困ることになります。
実際に信託契約の利用をお考えの方や,既に作成した信託に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
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