【解除の不可分性の基本(具体例・任意法規性・適用範囲)】
1 解除の不可分性の基本
一般的な解除のルールの1つとして解除の不可分性(解除権不可分の原則)があります。
実務では売買や賃貸借契約の当事者の一方が複数人であるケースで契約を解除する際にこのルールが問題となることがあります。
本記事では、解除の不可分性の基本的な内容を説明します。
2 解除の不可分性の条文
解除の不可分性が実際に適用される状況は契約の当事者が多く、解釈が少し複雑です。そこで最初に条文の規定自体を確認しておくと、いろいろな解釈が理解しやすくなります。
解除の不可分性の条文
第五四四条 当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。
2 前項の場合において、解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅する。
※民法544条
3 解除の不可分性(1項)が適用される具体例
解除の不可分性の解釈は複雑になりがちなので、先にストレートに適用される具体例を押さえておくと、いろいろな解釈の理解がしやすくなります。
典型例は、賃貸借などの契約の当事者の一方が複数人というケースです。どちらから解除する際にも、複数当事者の全員が関わる必要があるのです。
解除の不可分性(1項)が適用される具体例(※1)
あ 契約の当事者
賃貸借契約において(売買でも同じ)
賃貸人=甲
賃借人=乙・丙
い 多数人に対する解除
賃貸人(甲)が解除する場合
乙・丙の両方に対して解除の意思表示をしなくてはならない
う 多数人からの解除
賃借人(乙・丙)が解除する場合
乙・丙の両方が甲に対して解除の意思表示をしなくてはならない
※民法544条1項
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(13)債権(4)補訂版』有斐閣2006年p865
4 解除権消滅の不可分性(2項)が適用される具体例
解除の不可分性は解除権が消滅する時にも適用されます。典型例は解除権を放棄したという状況です。
解除権消滅の不可分性(2項)が適用される具体例
あ 不可分性が適用される具体例
((前記※1)の事例を前提とする)
乙が解除権を放棄した場合
→丙も解除できなくなる
い 法的性質(概念)
解除権不可分(1項)の原則の1場面ともいえる
※民法544条2項
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(13)債権(4)補訂版』有斐閣2006年p865、866
5 解除の不可分性の任意法規性
解除の不可分性は強行法規ではありません。つまり、適用を排除することを合意することは有効です。
解除の不可分性の任意法規性
あ 任意法規性
民法544条1項、2項のいずれも強行法規ではない
い 適用を排除する特約
民法544条の適用を排除する合意(特約)は
当事者全員で合意する必要がある
う 解除権放棄に関する特約の有用性
1人の解除権放棄が他の者の解除を不能とすることは迷惑となる
→迷惑を及ぼさないように特約をする必要が大きい
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(13)債権(4)補訂版』有斐閣2006年p867、870
6 解除の不可分性の適用範囲(各種の解除)
解除の不可分性は、文字どおり解除について適用されます。基本的には法定解除のことです。
この点、約定解除や合意解除にも適用されるという解釈が一般的です。
解除の不可分性の適用範囲(各種の解除)
あ 基本
解除権不可分の原則(民法544条1項)は
法定解除に適用される
い 約定解除
約定解除にも適用される
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(13)債権(4)補訂版』有斐閣2006年p866
う 合意解除
合意解除にも類推適用される
※高松高裁昭和34年6月16日
7 解約告知への解除の不可分性の適用→否定
解約告知は、契約を終了させるという意味では解除と同じです。日常用語としては解除と呼ぶことも多いです。
しかし、解約告知によって契約が終了するのは告知の後(将来効)です。法律的な解除は遡及効があります。そこで、解約告知は解除とは違うものとして、解除の不可分性は適用しないという見解が一般的です。
解約告知への解除の不可分性の適用→否定
→解除の不可分性は適用されない
=各自が単独で解約告知をすることができる
※神戸地裁昭和25年1月10日;共同賃貸人の1人による解約申入
※甲府地裁昭和28年4月22日;共同賃借人に対する解約申入
8 事後的な複数人数と解除の不可分性→肯定
解除の不可分性が適用されるのは、当事者の一方が複数人であるときです。もっとも基本的な状況は、契約の当初から複数人であったというものです。
この点、契約当初は1対1であったけれど後から複数人に変わったケースにも適用されます。実務でも、相続によって賃貸人や賃借人が複数人(相続人)になったという事例が多いです。
事後的な複数人数と解除の不可分性→肯定
あ 基本
解除の不可分性(民法544条1項)は
当初から契約当事者が複数である場合は当然に適用される
い 事後的な複数人数
契約締結の後に一方当事者が複数となった場合にも適用がある
典型例=共同相続
※谷口知平ほか編『新版 注釈民法(13)債権(4)補訂版』有斐閣2006年p867
9 強制管理における解除の不可分性の適用除外
ところで、民事執行法の手続の中に強制管理があります。管理人が複数選任された場合には条文上、民法544条の適用を排除する、つまり例外扱いが定められています。
強制管理における解除の不可分性の適用除外
あ 条文
管理人が数人あるときは、第三者の意思表示は、その一人に対してすれば足りる。
※民事執行法95条4項
い 賃借人からの解除の意思表示→民法544条適用除外(例外)
民法上、解除権行使は契約当事者の全員からまたは全員に対して行わなければならないが(民544①)、本文の場面(注・賃借人による賃貸借契約の解除の意思表示)はその例外にあたる。
う 賃貸人(管理人)からの解除の意思表示→民法544条適用あり
他方、管理人からの解除の意思表示については本条4項が妥当しないため、事務分業がない限り、民法の規律に従い管理人全員で行うべきことになる。
※今津綾子稿/伊藤眞ほか編『条解 民事執行法 第2版』弘文堂2022年p988
10 解除の不可分性に反する解除の効力(概要)
解除の不可分性が適用されると、すべての当事者が解除の意思表示に関わる必要が出てきます。
逆に、一部の当事者が解除の意思表示に関わっていない場合には、原則として解除は無効となってしまいます。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|解除の不可分性に反する解除の効力(一部当事者の通知を欠く解除)
本記事では、解除の不可分性の基本的な内容を説明しました。
実務では、あまりこの規定(理論)を意識していないような状況で思いがけず解除が無効となってしまうといいうケースを散見します。
実際に複数の当事者が関わる契約解除の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。