【解除の不可分性に反する解除の効力(一部当事者の通知を欠く解除)】
1 解除の不可分性に反する解除の効力
2 解除の不可分性に反する解除の効力の原則と例外
3 解除の通知の同時性(不要)
4 共有者の解除の意思決定と解除の不可分性(否定)
5 共同買主の解除における解除の不可分性(肯定)
1 解除の不可分性に反する解除の効力
契約当事者の一方が複数人であるケースで契約を解除する場合は,当事者全員が解除の意思表示に関わる必要があります。
詳しくはこちら|解除の不可分性の基本(具体例・任意法規性・適用範囲)
一部の当事者が解除の意思表示から欠けていた場合には原則として解除は無効となります。しかし例外的な扱いもあります。
本記事では,解除の不可分性に反する解除の効力について説明します。
2 解除の不可分性に反する解除の効力の原則と例外
解除の不可分性に反した解除の意思表示は,原則的に無効となります。判例では,特段の事情がない限りという言葉を付けていますが,その内容がどんなものであるかということには言及がありません。
地裁の裁判例では,救済的な扱い,つまり解除を有効としているものもあります。結局,どのような場合に例外的に有効となるかという明確な基準はありません。
<解除の不可分性に反する解除の効力の原則と例外>
あ 解除の不可分性に反する解除(前提)
一部の当事者を欠いた解除の意思表示が行われた
=解除の不可分性に違反している
い 原則的な効力(無効)
『あ』の解除の意思表示は
特段の事情がない限り無効である
※最高裁昭和36年12月22日;共同賃借人(相続人)の1人に対する解除
※東京高裁昭和35年8月1日;共同賃貸人の1人による解除(同趣旨)
う 救済的な扱い(有効)
共同賃借人の1人に対する賃料催告と解除の意思表示
→他の者(共同相続人)に対しても効力を生じる
※東京地裁昭和34年1月31日
※東京地裁昭和34年9月8日
※東京地裁昭和39年7月31日
※大阪地裁平成4年4月22日参照
3 解除の通知の同時性(不要)
解除の不可分性に反する解除の意思表示の効力は,原則的に無効です(前記)。
ただし,その後に残る当事者への(からの)解除の意思表示があって,最終的に当事者全員が関与した状態になれば,解除は有効となります。
要するに,必要な解除の意思表示がすべて完了した時点で解除の効力が発生するということになります。
<解除の通知の同時性(不要)>
あ 同時性(不要)
解除の不可分性により
複数の解除の意思表示が必要になる
複数の意思表示を同時に行う必要はない
い 効力発生時点
別個に解除の意思表示を行った場合
最後になされた意思表示の時点で解除の効力を生じる
※大判大正12年6月1日
4 共有者の解除の意思決定と解除の不可分性(否定)
解除の不可分性が問題となるケースでは,共有に関する規定も一緒に問題となることが実務ではとても多いです。
不動産の共有者が賃貸人である場合には,解除するという決定は,共有物の管理として持分の過半数の賛成で可決(決定)します。
このことを,解除の不可分性が適用されないということがあります。しかし,そもそも意思決定は解除の不可分性の対象ではないという指摘もあります。
<共有者の解除の意思決定と解除の不可分性(否定)>
あ 共有者による賃貸の解除の意思決定
共有物の賃貸借において
解除の決定は管理に該当する
→持分価格の過半数で決定できる
い 解除の不可分性
解除の不可分性は適用されない
※最高裁昭和39年2月25日
詳しくはこちら|共有物の賃貸借の解除・終了と明渡請求に関する変更・管理・保存行為の分類
5 共同買主の解除における解除の不可分性(肯定)
売買契約の買主が複数であったケースについて解除の不可分性が問題となった古い判例があります。
買主のうち1人だけが解除の意思表示をしたため,結論として解除は無効となりました。
一見すると,前記の判例(共有不動産の解除)と矛盾するようにみえます。しかし,複数の買主が解除すると決定すること自体に,複数の買主全員の同意が必要となるはずです。(過半数では決定できない)
この部分の違いが,結論の違いとして現れているともいえます。
<共同買主の解除における解除の不可分性(肯定)>
あ 契約当事者
売買契約の買主がA・B(共同買主)であった
い 解除の意思表示の内容
Aは,自己のために売買契約解除の意思表示をした
Aは,Bの事務管理者として解除の意思表示をした
う 裁判所の判断
Bの追認がない限り,買主の全員から解除の意思表示がなされたとはいえない
→解除は無効である
※大判大正7年7月10日
え 参考(売買契約解除の分類)
共有物を目的とする売買契約の解除について
→(共有物の)処分(変更)に該当する
→共有者全員の同意が必要である
詳しくはこちら|共有物の変更行為と処分行為の内容
本記事では,解除の不可分性に反する解除の効果について説明しました。
説明しましたとおり,解除の不可分性の基本的内容はそこまで難しくありませんが,実際の適用の場面ではハッキリと決まっていない解釈が多いです。つまり主張や立証によって結論が変わりやすいのです。
実際に複数の当事者が関わる契約解除の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。