【民法上の『住所』(意味・認定基準・認定した判例)】
1 民法上の『住所』(意味・認定基準・認定した判例)
2 民法22条(住所)の条文
3 生活の本拠の意味
4 住所の認定基準
5 住民票の住所・本籍と民法上の住所の関係
6 大学の寮を住所として認定した判例
7 複数の住所の可否(肯定方向)
8 民法上の『居所』の意味(概要)
1 民法上の『住所』(意味・認定基準・認定した判例)
民法では『住所』の意味を規定した条文(22条)があります。
『住所』は,民法のいろいろな規定で使うことがありますし,また,裁判(民事や家事の訴訟や調停など)でも使うことがあります。
本記事では,民法上の『住所』の規定や解釈や認定(判断)基準について説明します。
2 民法22条(住所)の条文
まず,民法22条の条文規定を確認しておきます。住所のことを生活の本拠
であると示すだけのシンプルな内容です。
<民法22条(住所)の条文>
(住所)
第二二条 各人の生活の本拠をその者の住所とする。
3 生活の本拠の意味
民法では,生活の本拠の意味について何も規定していません。
これについては,古い判例で生活の中心となる場所という解釈が示されています。とはいっても,日本語の辞書的な意味(当たり前の内容)にすぎません。
<生活の本拠の意味>
生活の本拠とは
『ある人の一般の生活関係においてその中心をなす場所』である
※大決昭和2年5月4日
4 住所の認定基準
実際にどのような場所を(民法上の)住所として認定するのか,ということがいろいろな場面で問題となることがあります。
これを判断(認定)する基準の大枠は,主観面と客観面の2つで判断するというものです。大まかにいえば,定住している状況があり,かつ定住する意思もあるということです。
この点,同じ『住所』という用語でも,民事訴訟法での解釈は(民法上の解釈とは)少し違います。
<住所の認定基準>
あ 認定基準
住所は『い・う』の両方が存在する場合に成立する
い 主観的要件
その場所を生活関係の中心としようとする意思
う 客観的要件
その意思を実現した事実
(客観的要件を不要とする見解もあるが少数派である)
※大決昭和2年5月4日
え 民事訴訟法の『住所』概念との違い
民事訴訟法の管轄の規定における『住所』について
客観的要件(う)を不要とする見解が有力である
詳しくはこちら|民事訴訟(と家事調停・審判・訴訟)の土地管轄のうち人的裁判籍
5 住民票の住所・本籍と民法上の住所の関係
どの場所を住所として認めるのか,という判断において,問題となるのが住民票の登録(をしてある『住所』)や戸籍上の本籍です。
本籍はもともと生活している場所とは関係ありません。住民票上の『住所』は,生活している場所(本拠)と一致していることが現実に多いですが,一致していないこともありえます。
<住民票の住所・本籍と民法上の住所の関係>
あ 別個の概念
『ア・イ・ウ』は別の概念である
ア 民法上の住所イ 住民基本台帳に記録された(住民票の)『住所』ウ 戸籍に記録された(戸籍法上の)『本籍(地)』
い 現実的な連動性
住民票の住所は民法上の住所の認定について強い意味を持つ
う 連動しない可能性
住民票の住所と違う場所に,民法上の住所が認定される場合もある
※最高裁平成9年8月25日;転出届が出されたが,生活の本拠には変更はない
6 大学の寮を住所として認定した判例
住所がどの場所なのか,ということが実際に問題となり,裁判所が判断したケースを紹介します。
これは,選挙で,どの場所で投票できるのか,ということの前提として住所の認定が問題となったケースです。
生活の実態として,大学寮が中心といえるかという枠組みで判断したのです。
裁判所は,細かい状況を総合して,学生らは寮が生活の中心だったといえる,つまり大学料の所在地を住所として認定しました。
<大学の寮を住所として認定した判例>
あ 大学寮における滞在
47名の学生が
両親のもとを離れて大学付属の寮(寄宿舎)において起臥していた
い 滞在期間
滞在期間は1〜4年が予定されていた
この時点での滞在期間は5か月〜3年であった
う 寮以外の拠点の有無
(寮以外の場所について)
学生らには配偶者がいる者はいなかった
管理すべき財産を持っていなかった
そのため,休暇以外は頻繁に実家に帰る必要もなく,またその事実もなかった
え 食生活
主食の配給も寄宿舎所在村で受けていた
お 住民票登録の状況
大部分の学生は,寮の場所で住民票登録をしていた
5名の学生は,寮の場所で住民票登録をしていなかった
か 裁判所の判断
合計47名の学生について
大学寮に(公職選挙法上の)住所がある
(そこにおいて選挙権がある)
※最高裁昭和29年10月20日
き 補足説明
その後の法改正により,現在では住民票の所在が基準となっている
7 複数の住所の可否(肯定方向)
ところで,民法上の住所について,複数の場所を認定できるのか,という問題もあります。
一般的な見解では,現実に複数の場所を生活の拠点としていることもありえるので,そのような場合には複数の住所を認めています。
<複数の住所の可否(肯定方向)>
人の生活関係には多種多様なものがある
→本拠といえる場所が複数存在することもありえる
→同一の人について複数の住所が認める見解が有力である
※我妻栄ほか著『我妻・有泉コンメンタール民法〜総則・物権・債権〜第3版』日本評論社2013年p104
8 民法上の『居所』の意味(概要)
民法には,住所とは別に居所という概念(用語の規定)があります。居所は住所と似ていますが,住所ほどは生活との密着性がないというもののことです。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|民法上の『居所』(規定・意味・住所との違い)
本記事では,民法上の住所の意味や解釈や認定基準について説明しました。
実際に住所が問題となるのは,さまざまな通知の効力や裁判の管轄などの別の問題の前提としてです。
実際に住所に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。