【旅行資金積立用の預金についての信託成立(東京地裁平成24年6月15日)】

1 旅行資金積立用の預金についての信託成立(東京地裁平成24年6月15日)
2 事案と争点の概要
3 預金者(権利の帰属)の判断
4 信託の成立の判断
5 本判決の意義・規範性

1 旅行資金積立用の預金についての信託成立(東京地裁平成24年6月15日)

財産を預かった者の債権者が預かり財産を差し押さえると,法的な扱いが問題となります。そして,信託の成立を認めることにより,預けた者が救済されることがあります。
詳しくはこちら|預けた財産の権利の帰属と信託による倒産隔離の全体像
本記事では,旅行資金のために4人で積み立てた金銭(預金)について信託の成立を認めた裁判例を説明します。

2 事案と争点の概要

4人の友人が,一緒に旅行に行くための資金を積み立てていました。そのうちの1人が代表となり,預金口座を作り,この口座で積み立てた金銭を保管していました。
その後,代表者の債権者が,この預金口座を差し押さえました。この差押がどのような法的扱いになるのかは,預金(債権)の帰属信託の成立の2つで決まります。
詳しくはこちら|預けた財産の権利の帰属と信託による倒産隔離の全体像

<事案と争点の概要>

あ 事案

A〜Dの4名は友人であった
A〜Dは,一緒に旅行に行くための費用を積み立てることにした
積み立て金の保管用の普通預金口座を『E会 代表者A』の名義で作った
『Aの債権者』がこの預金口座を差し押さえた

い 権利の帰属の争点

預金が帰属する者は『ア〜ウ』のいずれとなるか
ア Aだけイ A〜Dで4分の1ずつウ E会

う 信託の成立の争点

(預金がAだけに帰属した場合に)
預金について信託が成立するかどうか
※東京地裁平成24年6月15日

3 預金者(権利の帰属)の判断

まず,預金者については,Aであると判断されました。つまり,預金債権はAに帰属するということです。

<預金者(権利の帰属)の判断>

あ 団体の位置づけ

『E会』は権利能力なき社団・民法上の組合のいずれにも該当しない

い 預金者

預金者はAである
※東京地裁平成24年6月15日

4 信託の成立の判断

次に,裁判所は,Aに帰属する預金(債権)について,信託が成立すると判断しました。預金名義が『E会 代表者A』となっており,純粋にAが自由に処分できる資金ではいことが分かるような状態であったことが理由です。

<信託の成立の判断>

あ 信託の成立

預金名義から純粋なA個人の財産ではないことが明白であった
→AとB〜Dの間に信託契約が成立している

い 成立した信託の内容
信託目的 4人で旅行するための資金として管理・使用する
信託財産 預金額の4分の3
委託者兼受託者 B〜D
受託者 A
う  差押の効力

預金額の4分の3は信託財産である
→この部分の差押は無効である
※東京地裁平成24年6月15日

5 本判決の意義・規範性

預けた資産に信託の成立を認めた裁判例は少ないので,本判決は多くの事案で参考になるものです。
しかし,判断の内容としては,別の法的な解釈(構成)もあり得たという指摘がなされています。

<本判決の意義・規範性>

AとB〜D間の契約は委任(準委任)や寄託としても成立しうる
それ以上に強力な効力を有する信託の成立を認めるだけの財産管理状態・預託者を保護すべき利益状況があったといえるかについては異論もあり得るように思われる
※『NBL999号』商事法務2013年p85

本記事では,預けた資産について信託の成立を認めた裁判例を説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方によって信託の成立の判断は違ってきます。
実際に信託の成立(倒産隔離)の問題に直面されている方やこれから行う事業の中で信託の活用を検討されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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