【民事訴訟・刑事訴訟における弁護士・司法書士の証言拒絶権】

1 民事訴訟・刑事訴訟における弁護士・司法書士の証言拒絶権
2 一定の職業の証言拒絶権の条文規定
3 民事訴訟の証言拒絶権の主体(職種)
4 刑事訴訟の証言拒絶権の主体(職種)
5 『職務上知り得た事実』の意味
6 『黙秘すべきもの』の意味(民事訴訟法)
7 証言拒絶権の例外(刑事訴訟法149条但書)
8 違法な証言拒絶に対する制裁(概要)
9 秘密保持義務と証言拒絶権の関係(概要)

1 民事訴訟・刑事訴訟における弁護士・司法書士の証言拒絶権

弁護士と司法書士は,秘密保持義務を課せられています。
詳しくはこちら|弁護士・司法書士の秘密保持義務(秘密の範囲と例外)
その反映として,訴訟で証言することを拒絶する権利が一定の範囲で認められています。
本記事では,弁護士と司法書士の証言拒絶権について説明します。
なお,証言拒絶権にはこれ以外に,刑事訴追のおそれや名誉が害されることを理由とするものもあります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|刑事訴追のおそれ・名誉侵害による証言拒絶権(民事訴訟法196条)

2 一定の職業の証言拒絶権の条文規定

証言拒絶権にはいろいろな種類のものがあります。そのうち一定の職業(職種)について適用されるものが,民事訴訟法と刑事訴訟法の両方に規定されています。
まずは条文の規定を押さえておきます。

<一定の職業の証言拒絶権の条文規定>

あ 民事訴訟法197条1項2号

第百九十七条 次に掲げる場合には、証人は、証言を拒むことができる。
一(略)
二 医師、歯科医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、弁護人、公証人、宗教、祈祷とう若しくは祭祀しの職にある者又はこれらの職にあった者が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合
三(略)
2(以下略)

い 刑事訴訟法149条

第百四十九条 医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人、宗教の職に在る者又はこれらの職に在つた者は、業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するものについては、証言を拒むことができる。但し、本人が承諾した場合、証言の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合(被告人が本人である場合を除く。)その他裁判所の規則で定める事由がある場合は、この限りでない。

3 民事訴訟の証言拒絶権の主体(職種)

前記のように,民事訴訟法と刑事訴訟法の条文の規定では,両方とも弁護士は入っていて,司法書士は入っていません。
これについて,まず,民事訴訟法の解釈としては,司法書士も含まれると考えられています。

<民事訴訟の証言拒絶権の主体(職種)>

あ 例示列挙

民事訴訟法197条1項2号に列挙された職に限らない

い 含まれる職種の範囲

(列挙された職種に限らず)
法令上個人の秘密を保護する趣旨から黙秘義務を課せられている者も,証言拒絶権を有する

う 含まれる職種の具体例

調停委員,司法書士,公認会計士,選挙人など
※賀集唄ほか編『基本法コンメンタール 民事訴訟法2 第3版追補版』日本評論社2012年p195

4 刑事訴訟の証言拒絶権の主体(職種)

刑事訴訟法の証言拒絶権の職種については,記載されている職種以外は含まないと解釈されます。民事訴訟法の解釈とは違うのです。
結局,司法書士は刑事訴訟法の証言拒絶権を持たないということになります。

<刑事訴訟の証言拒絶権の主体(職種)>

あ 限定列挙

刑事訴訟法149条に列挙された職種(弁護士など)について
限定列挙である
類推適用は許されない
※最高裁昭和27年8月6日

い 他の職種の証言拒絶権(否定)

列挙された職種以外は刑事訴訟において証言を拒むことはできない

う 司法書士の証言拒絶権(否定)

司法書士は,刑事訴訟法149条に規定されていない
→刑事訴訟において証言拒絶権をもたない
司法書士が簡裁訴訟代理業務について知り得た秘密についても同様である
※小林昭彦ほか著『注釈 司法書士法 第3版』テイハン2007年p261

5 『職務上知り得た事実』の意味

民事訴訟法と刑事訴訟法の証言拒絶権について,職種の範囲については前記のように解釈の違いがあります。しかし,証言を拒絶できる情報(秘密)の範囲については解釈の方向性は同じです。
以下,主に民事訴訟法の解釈を前提に説明しますが,刑事訴訟法の解釈と基本的に共通しています。
まず,証言を拒絶できる情報(秘密)は,職務上知り得たものに限定されています。文字どおり職務の遂行の過程で入手した情報という意味です。

<『職務上知り得た事実』の意味>

あ 『職務上知り得た事実』の意味

(民事訴訟法197条1項2号について)
職務処理の結果,患者・依頼者・顧客・信徒などからの委託によって知り得た事実を広く含む

い 含まれる範囲

知り得た機会や方法を問わない
直接本人から聞き知ったものに限らず,第三者から聞き,あるいは文書その他で知り得た事実も含む
※賀集唄ほか編『基本法コンメンタール 民事訴訟法2 第3版追補版』日本評論社2012年p195

う 秘密保持義務との比較(参考)

弁護士(司法書士)の秘密保持義務の対象としての『職務上知り得た』と同様の解釈である
詳しくはこちら|弁護士・司法書士の秘密保持義務(秘密の範囲と例外)

6 『黙秘すべきもの』の意味(民事訴訟法)

証言の拒絶ができる情報のことを,民事訴訟法では黙秘すべきものと記載しています。刑事訴訟法では秘密と記載しています。
解釈としては,本人が知られたくないと思うことと,一般的に知られたくないと思うようなことという2つで判断することになります。

<『黙秘すべきもの』の意味(民事訴訟法)>

あ 『黙秘すべきもの』の意味

(民事訴訟法197条1項2号について)
一般に知られていない事実のうち,弁護士などに事務を行うことなどを依頼した本人が,これを秘匿することについて,単に主観的利益だけではなく,客観的にみて保護に値するような利益を有するものをいう
※最高裁平成16年11月26日

い 秘密保持義務との比較(参考)

弁護士(司法書士)の秘密保持義務の対象としての『秘密』と同様の解釈である
詳しくはこちら|弁護士・司法書士の秘密保持義務(秘密の範囲と例外)

7 証言拒絶権の例外(刑事訴訟法149条但書)

刑事訴訟での証言拒絶権には,但書があり,例外,つまり証言を拒絶できない場合が規定されています。
主に,本人の承諾がある場合と,被告人の不利になることを避けるためという場合の2つです。
本人の承諾がある場合には,民事訴訟でも『黙秘すべきもの』(前記)に該当しないことになるので,証言を拒絶できないという同じ結論になります。

<証言拒絶権の例外(刑事訴訟法149条但書)>

あ 『本人』の意味

証言拒絶権が否定される『本人の承諾』の『本人』について
『ア・イ』の2つの見解がある
ア 秘密の利益主体である(通説)イ 業務の依頼者である(他の見解) ※三井誠ほか編『新基本法コンメンタール 刑事訴訟法 第2版 追補版』日本評論社2017年p171

い 『被告人のためのみ』(権利の濫用)の意味

『被告人のためのみにする』証言拒絶について
→証人が専ら被告人の利益を図る意図で証言を拒絶することはできない
ただし,秘密の利益主体が被告人である場合は証言拒絶権の行使は可能である
※三井誠ほか編『新基本法コンメンタール 刑事訴訟法 第2版 追補版』日本評論社2017年p171

8 違法な証言拒絶に対する制裁(概要)

以上のように,一定の範囲で証言を拒絶することが認められています。逆に,このような証言拒絶権がない場合には証言をする義務があります。
そこで,証言拒絶権がないと裁判所が判断(決定)した後に証言を拒否した場合には制裁が科せられることがあります。
実際には,証人となった者自身が,証言拒絶権があるかどうかをはっきりと判断できないこともあります。その場合は裁判所が証言拒絶権はないと判断するまでは証言をしないでおくという方法が有用です。
詳しくはこちら|民事訴訟・刑事訴訟における違法な証言拒絶に対する制裁(過料・罰金・拘留)

9 秘密保持義務と証言拒絶権の関係(概要)

ところで,証言拒絶権権利であり,証言を拒絶することができるというものです。その意味では,拒絶しない自由もあるといえます。
しかし,証言が拒絶できるのに自身の判断で証言してしまうと,秘密保持義務違反となってしまいます。
このように証言拒絶権は,秘密保持義務(守秘義務)と密接に関連しているのです。
詳しくはこちら|弁護士・司法書士の秘密保持義務(秘密の範囲と例外)

本記事では,弁護士と司法書士の証言拒絶権について説明しました。
実際には個別的事情によって判断は違ってきます。
弁護士や司法書士の証言拒絶権に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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