【犯罪収益移転防止法による仮想通貨交換業者の取引時確認(本人確認)】

1 犯罪収益移転防止法による仮想通貨交換業者の取引時確認
2 通常の取引時確認の要件
3 『特定取引』の意味
4 仮想通貨交換業に関する対象取引の内容
5 犯収法の取引時確認のタイミングと確認方法(概要)
6 疑わしい取引の報告義務(概要)

1 犯罪収益移転防止法による仮想通貨交換業者の取引時確認

仮想通貨交換業者は犯罪収益移転防止法(犯収法)の適用を受ける特定事業者として指定されています。
詳しくはこちら|仮想通貨交換所の規制(平成28年改正資金決済法)の全体像
犯罪収益移転防止法の規制の中の1つとして取引時確認の義務があります。
本記事では,主に仮想通貨交換業者について,取引時確認が必要となる状況と,行うべき確認の内容(方法)について説明します。

2 通常の取引時確認の要件

取引時確認には,通常厳格(な方法)の2種類があります。
主に行われるのは通常の取引時確認ですので,これを前提として説明します。
通常の取引時確認が必要となる状況を正確にいうと,7つの要件のすべてに該当する場合です。

<通常の取引時確認の要件>

あ 特定事業者に該当する

仮想通貨交換業者も特定事業者の1つである
※犯罪収益移転防止法2条2項31号

い 取引の相手方が顧客等である
う 特定業務に関する取引である
え 取引が『特定取引』(後記※1)に該当する
お 『行うに際して』(は取引時確認が必要となる)
か ハイリスク取引に該当しない
き 確認済顧客の例外を利用しない

※犯罪収益移転防止法4条1項

3 『特定取引』の意味

取引時確認が必要となるのは特定取引が行われる際です(前記)。
この特定取引の種類は,対象取引の類型として,犯罪収益移転防止法に列挙されています。なお,例外的に簡素な取引は一定の範囲で適用除外となります。

<『特定取引』の意味(※1)

あ 『特定取引』の意味(定義)

『特定取引』とは,『い・う』の両方に該当する取引のことである

い 『対象取引の類型』

『対象取引の類型』のいずれかに該当する
取引の種類ごとに規定されている(後記※2
※犯罪収益移転防止法施行令7条1項各号,9条

う 簡素取引(例外)への非該当

『簡素な顧客管理の許容される取引』に該当しない
※犯罪収益移転防止法施行規則4条1項各号

4 仮想通貨交換業に関する対象取引の内容

取引時確認が必要となる対象取引の中で,仮想通貨交換業に関するものがいくつか規定されています。
主に,アカウントを作るような基本契約と,個別的な仮想通貨の交換の取引です。個別的な取引については,1回の取引の価額が200万円を超えるものに限定されています。

<仮想通貨交換業に関する対象取引の内容(※2)

あ 基本契約

仮想通貨の交換等(資金決済法2条7項に規定する仮想通貨の交換等をいう)
を継続的に若しくは反復して行うこと
具体例=アカウント作成などのための基本契約の締結
※中崎隆ほか著『詳説 犯罪収益移転防止法・外為法 第2版』中央経済社2017年p48
※犯罪収益移転防止法施行令7条1項ヨ

い 付随的なウォレットサービスの契約

仮想通貨の交換等(あ)に付随して,金銭or仮想通貨の管理をすること

う 仮想通貨の交換契約

仮想通貨の交換等であって,当該仮想通貨の交換等に係る仮想通貨の価額が200万円を超えるもの
※犯罪収益移転防止法施行令7条1項タ

5 犯収法の取引時確認のタイミングと確認方法(概要)

取引時確認の各要件に該当する場合,取引時確認を行う義務が生じます。取引時確認を行うタイミングは,特定取引を行うに際して,と規定されています。
つまり,取引の前であることは必須ではありません。取引の後でも一定の合理的な期間内であれば許容されます。
詳しくはこちら|犯収法の本人確認(取引時確認)の時期(『行うに際して』の解釈)
また,取引時確認を行う方法も,細かく形式的な確認方法が規定されています。
仮想通貨交換業のようなオンラインが中心のサービスでは非対面で確認する方法を用います。その際,用いる必要のある書類(資料)の種類についても細かい規定があります。
詳しくはこちら|犯罪収益移転防止法の本人確認方法の内容(特定取引に共通)

6 疑わしい取引の報告義務(概要)

犯罪収益移転防止法による規制の中には,取引時確認とは別に疑わしい取引の報告義務もあります。
仮想通貨交換業者については,顧客が盗難された仮想通貨を交換業者に送金した(預けた)場合に金融庁に報告する義務が問題となります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|仮想通貨交換業者のマネーロンダリング対策義務(盗難コインチェック義務)

本記事では,主に仮想通貨交換業者の負う犯罪収益移転防止法による取引時確認について説明しました。
実際には,さらに細かい規定がありますし,また,運用上いろいろな配慮も求められます。
仮想通貨交換業の運用に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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