【不動産登記申請における司法書士の確認不足の分類と責任の種類】
1 不動産登記申請における司法書士の確認不足の分類と責任の種類
2 司法書士の確認不足の分類
3 確認不足による司法書士の法的責任の種類
4 犯罪収益移転防止法による確認義務(概要)
5 実質的な司法書士の確認義務の内容・基準(概要)
1 不動産登記申請における司法書士の確認不足の分類と責任の種類
不動産登記申請の依頼を受け,代理人として申請することは,司法書士の主要業務です。
司法書士は,虚偽や不正の登記申請をしてしまわないように細心の注意を払います。
しかし,注意や確認に不備があって登記が実行されないとか,虚偽の登記が実行されてしまうという事故は実際に生じています。
本記事では,不動産登記申請に関する,司法書士の確認不足の分類と,生じる責任の種類について説明します。
このような分類や種類の整理は,いろいろな責任に関する解釈に役立つものです。
2 司法書士の確認不足の分類
司法書士の確認不足によって生じる事故の主な原因は,なりすましと登記意思の確認不足と書類の不備の3つに分類できます。
別の言い方をすると,まず,人・モノ・意思の確認の不足が挙げられます。これらの確認が万全であっても,書類に不備や不足があったために登記が実行されないということもあります。
なお,確認不足からは外れますが,司法書士が説明しておくべきことを説明しなかったことについて責任が生じることもあります。
<司法書士の確認不足の分類>
あ なりすまし(人の確認)
真の権利者本人が登記申請(委任)していなかった
代理人に代理権がなかった
い 登記意思の不備(モノ・意思の確認)
ア 登記意思と登記申請の齟齬
申請人が意図した登記(申請)内容とは異なる登記申請をしてしまった
※『月報司法書士2007年7月』p66参照(無断での委任事項の加除)
イ 意思能力の欠缺
申請人の意思能力が欠けていた(特に高齢者)
※宮崎地裁平成22年5月26日参照
う 書類の不備
書類に不足や不備があり,補正or却下となった
単なる書類不足と偽造・変造された書類の提出がある
例=『なりすまし』が偽造書類を用いる
え 説明の不備(参考)
登記は実行されたが,他に優先される権利が存在した
3 確認不足による司法書士の法的責任の種類
司法書士の確認や注意に不足がある場合,司法書士が法的責任を負うことがあります。
法的責任は,刑事責任・民事責任・行政責任の3つに分けられます。
刑事責任は,虚偽の本人確認情報の作出など,意図的に不正な登記の申請に加担した場合に認められます。
民事責任と行政責任を認める明確な条文上の基準はありません。解釈としては,同じような判断基準が用いれられます。
<確認不足による司法書士の法的責任の種類>
あ 刑事責任
資格者代理人が『本人確認情報』に虚偽の内容を記載した
→不動産登記法の虚偽本人確認情報の作出罪に該当する
法定刑=懲役2年以下or罰金50万円以下
※不動産登記法160条
い 民事責任
損害賠償責任
う 行政責任
種類 | 判断権者 |
懲戒処分 | 法務局長 |
注意勧告 | 司法書士会 |
詳しくはこちら|登記申請に関する司法書士の懲戒処分の全体像(不適切な業務の分類)
え まとめ
刑事・民事・行政責任(あ〜う)が生じること
→規範の重層性と呼ぶ
※加藤新太郎著『司法書士の専門家責任』弘文堂2013年p183
4 犯罪収益移転防止法による確認義務(概要)
不動産登記申請を行う司法書士は,犯罪収益移転防止法による本人確認義務を負います。これは,確認すべき書類や方法について,形式的な最低限の基準が設定されているものです。
詳しくはこちら|犯罪収益移転防止法による不動産登記申請を行う司法書士の確認の内容
5 実質的な司法書士の確認義務の内容・基準(概要)
民事責任と行政責任(懲戒処分)については,明確な(形式的な)基準はありません。過去の裁判例の蓄積によって,一定の判断の枠組み(基準)が形成されています。
とはいっても,結局,裁判例から形成される基準はある程度曖昧なものです。具体的に行った確認の内容について,責任が生じるかどうかを明確に判断できないことも実際に多いです。
詳しくはこちら|不動産登記申請を行う司法書士の確認義務の枠組み(疑念性判断モデル)
本記事では,不動産登記申請を行う司法書士の確認不足のパターンや,責任の種類について説明しました。
実際には,個別的事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に司法書士の責任(不正な登記)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。