【不動産登記申請をした司法書士の責任の裁判例(なりすまし・登記済証あり)】
1 不動産登記申請をした司法書士の責任の裁判例(なりすまし・登記済証あり)
2 抵当権設定・運転免許証の誤字と不自然な厚さ・責任あり
3 抵当権設定・真正な登記済証・責任なし
1 不動産登記申請をした司法書士の責任の裁判例(なりすまし・登記済証あり)
司法書士が不正を見抜けなかったために虚偽の不動産登記申請を行ってしまい,司法書士の責任の有無が問題となるケースは多くあります。
責任の判断の枠組みはありますが,これによって個々の事案の責任を明確に判断できるわけではありません。
詳しくはこちら|不動産登記申請を行う司法書士の確認義務の枠組み(疑念性判断モデル)
本記事では,このような実例について司法書士の責任を判断した裁判例のうち,なりすましからの依頼であり,かつ,(偽造のものも含めて)登記済証を受け取った(保証書や本人確認情報の作成はない)ケースについて紹介します。
2 抵当権設定・運転免許証の誤字と不自然な厚さ・責任あり
抵当権設定登記について,所有者になりすました者から依頼を受けたケースです。
登記済証が精巧に偽造されていたので,この偽造を見抜けなかったことは過失とはなりませんでした。
一方,本人確認のために見た運転免許証が真正なものより厚いもので,さらに人名の漢字に誤字があったので,これを見逃したことが過失として認められました。
結局,司法書士は賠償責任を負うことになりました。
<抵当権設定・運転免許証の誤字と不自然な厚さ・責任あり>
あ 申請した登記
抵当権設定
い 信用できる情報
登記済権利証の偽造は精巧であった
→偽造であることに疑いを持たないものであった
自称B(所有者)は,司法書士の質問にも的確に回答していた
自称Bは,真正な印鑑登録証明書・住民票を持参していた
う 信用できない情報
登記権利者(代理人)が,運転免許証が真正なものと比べて厚いのではないかという点と写真の輪郭が不自然である点を指摘していた
運転免許証には厚さや記載された文字の大きさなどに,真正なものとの違いがあった
氏名の1文字は違っていた(藏と蔵)
自称Bは,抵当権がまったく設定されておらず,十分な担保価値のある物件を所有しているにもかかわらず,代理人Aから月3%(年率36%)もの高利で,かつ,仲介手数料として融資額の5%である1500万円を支払ってまで金銭を借り受けようとしていることは不自然である
え 司法書士の行った調査の不足
司法書士は,運転免許試験場に電話をかけ,B名義での自動車運転免許登録の有無を質問したが,プライバシーの保護を理由に回答を拒否された
それ以上の調査は行わなかった
お 司法書士の責任
司法書士の賠償責任あり
過失相殺=4割
※大阪地裁平成9年9月17日
3 抵当権設定・真正な登記済証・責任なし
抵当権設定登記について,なりすましからの依頼を受けてしまったケースです。
本人確認の質問で,なりすましをしていた依頼者は,間違った生年月日を言いかけてすぐに訂正しました。
一方で,登記済証は偽造によるものではなく,真正なものでした。
結論として,司法書士の責任は否定されました。
<抵当権設定・真正な登記済証・責任なし>
あ 申請した登記
XがA・Bに対して500万円を貸し付ける
Bの夫Cが所有する不動産に抵当権設定登記を行う
い 司法書士が行った調査内容
司法書士は,Cと称するDと面談した
Dは誤って生年月日を『大正13年・・・』と回答し始めた
隣に座っていた者がDの体を突き,その後Dは暗記していたCの生年月日を言い直した
本人確認のため,Cの印鑑登録証明書や後期高齢者医療被保険者証の提示を受けた
(単位会の本人確認規程に定める方法に則ったものである)
司法書士は,Cの氏名・生年月日をDに直接口頭で回答させた
借入金額についてもDから回答を得ている
Bが真正な登記済証を持参していた
う 調査内容の評価
登記義務者の本人性及び登記意思の存否についての一応の確認は行ったといえる
住所を口頭で暗唱させることが必須とまではいえない
え 司法書士の責任
司法書士の賠償責任なし
※福岡高裁宮崎支部平成22年10月29日
本記事では,不正な不動産登記申請をしてしまった司法書士の法的責任を判断した裁判例を紹介しました。
実際には,個別的な事情や,その主張・立証のやり方次第で判断結果は変わります。
実際に司法書士の責任(不正な登記)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。