【不動産登記申請をした司法書士の責任の裁判例(代理人からの依頼・登記済証なし)】
1 不動産登記申請をした司法書士の責任の裁判例(代理人からの依頼・登記済証なし)
2 本人と面談しないで保証書作成・責任あり
3 売買・本人面談なし・リピーター紹介者+親族が窓口・責任なし
4 意図的な虚偽の本人確認情報提供による刑事責任(参考)
1 不動産登記申請をした司法書士の責任の裁判例(代理人からの依頼・登記済証なし)
司法書士が不正を見抜けなかったために虚偽の不動産登記申請を行ってしまい,司法書士の責任の有無が問題となるケースは多くあります。
責任の判断の枠組みはありますが,これによって個々の事案の責任を明確に判断できるわけではありません。
詳しくはこちら|不動産登記申請を行う司法書士の確認義務の枠組み(疑念性判断モデル)
本記事では,このような実例について司法書士の責任を判断した裁判例のうち,本人以外(代理人)からの依頼であり,かつ,登記済証がなかった(保証書や本人確認情報を作成した)ケースについて紹介します。
2 本人と面談しないで保証書作成・責任あり
最初に,司法書士が所有者本人と面談しないで保証書を作成したケースです。
過去の保証書の制度では,条文上は登記義務者(真の権利者)との面談の義務は明記されていませんでした。しかし,本人確認の不備により虚偽の登記ができてしまうという重大なリスクがあるので,精度の高い確認が要求されます。
結局,本人と面談しないで保証書を作成したことで,司法書士の責任が認められました。
<本人と面談しないで保証書作成・責任あり>
あ 保証書の作成経緯
登記義務者本人からの依頼ではなかった
自称代理人は登記済証を紛失したと説明していた
司法書士は登記義務者本人と面談しないままであった
司法書士は保証書を作成した
い 司法書士の責任
司法書士の賠償責任あり
う 刑事責任(参考)
人違いがないことの保証,という文言に違反している
→本来は刑事責任が認められる
※最高裁昭和50年11月28日
3 売買・本人面談なし・リピーター紹介者+親族が窓口・責任なし
売買の登記について,保証書を使った申請をしてしまい,虚偽の登記がなされてしまったケースです。登記申請をした司法書士の責任は否定されました。
というのは,登記申請をした司法書士は,保証書の作成をしていなかったのです。
前記の最高裁判例と似ていますが,この部分が違うので,結論も異なっているのです。
<売買・本人面談なし・リピーター紹介者+親族が窓口・責任なし>
あ 取引と当事者
土地建物の所有者A
B=Aの子
C=Bの夫
い 依頼の経緯
Cが司法書士に『土地の売買による所有権移転登記』を依頼した
無断でAの印鑑を使用した
Aの印鑑証明書を取得した
う 建物の登記(参考)
建物については別の司法書士に依頼しB名義の保存登記を行った
え 信用できない事情
本件登記の3か月前に,司法書士はCから本件土地について抵当権設定登記申請の依頼を受任していた,抵当権設定登記,保証書による申請であった
親族間での物上保証とその後の売買の登記申請を全体とすれば,取引実態について疑いを生じるものであった
複数回の保証書による申請で,かつ老齢の登記義務者と面談していないので,親族間で老人を排除して無断の取引を行うことを疑う余地があった
お 信用できる事情
所有者Aの子Bの夫Cが,無断でAの印鑑を使用した+印鑑証明書を取得した
Cから依頼を受ける経緯は,過去に何度か登記申請を依頼したことのある建設会社経営者の紹介であった
保証書作成者は,司法書士の知人であった
AとBやCは親子(実と義理)の関係にあった
か 司法書士の責任
司法書士の賠償責任なし
き 責任追及の当事者(注意)
原告は,本件登記の後から別途(司法書士の関与なく)抵当権設定を受けて金銭を融資した者であった
※東京地裁平成3年2月28日
4 意図的な虚偽の本人確認情報提供による刑事責任(参考)
保証書の制度は,平成16年の法改正により,本人確認情報の制度に変わっています。
司法書士が,虚偽の本人確認情報を作成したケースです。
これは,司法書士が騙されたという通常のケースとは違い,司法書士自身が不正な虚偽の登記の作出に加担したというものです。
当然ですが,刑事責任が認められています。しかも,懲役1年2か月の実刑という重い刑が科せられています。
ちょっとテーマがずれますが,参考として本記事で紹介しておきます。
<意図的な虚偽の本人確認情報提供による刑事責任(参考)>
あ 不正登記の計画と当事者
所有者A=高度の痴呆
Aの息子B=共犯者
Aの所有する土地を,Aに無断でCに売却することを企てた
仲介業者=株式会社D
Dの代表取締役E
B・E・司法書士Yが共謀した
い 虚偽の本人確認情報の作成
Aが入院している病院の部屋において,Aの手をBが握り,登記申請の委任状や登記原因証明情報への記載や署名をさせた
Aに無断で押印した
委任状は事情を知らないG司法書士を受任者とするものであった
本人確認情報を作成・提出した
虚偽の内容が記載されていた(登記申請の権限を有する登記名義人であることに疑義を生じる事情が存在しない旨)
う 裁判所の判断
ア 原審
懲役1年2か月の実刑に処した
※大阪地裁平成17年12月21日
イ 控訴審
控訴棄却→実刑判決が確定した
※大阪高裁平成18年5月30日
本記事では,不正な不動産登記申請をしてしまった司法書士の法的責任を判断した裁判例を紹介しました。
実際には,個別的な事情や,その主張・立証のやり方次第で判断結果は変わります。
実際に司法書士の責任(不正な登記)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。