【形式的に真正な登記申請によって虚偽の不動産登記が生じた実例】
1 形式的に真正な登記申請によって虚偽の不動産登記が生じた実例
2 不正な役員総入れ替え登記後の虚偽の不動産売買
3 不正な移転登記の後の虚偽の移転登記
1 形式的に真正な登記申請によって虚偽の不動産登記が生じた実例
司法書士が不正を見抜けなかったために虚偽の不動産登記申請を行ってしまうケースは多くあります。
そのようなケースの中で,登記申請自体は問題ないけれど,前提となる過去の登記に不正があったことにより,新たな登記も無効となるというものがあります。
要するに,登記申請の前の不動産登記が無効であったものと,登記義務者である法人の登記に虚偽(無効)があったというものです。
本記事では,このような実例について紹介します。なお,不動産の登記申請を行った司法書士の責任が認められるかどうかは別問題です。全体的に,否定される可能性が高いと思われます。
2 不正な役員総入れ替え登記後の虚偽の不動産売買
所有権移転登記の申請における登記義務者(所有者)が法人である場合は,代表権のある代表取締役が登記申請を委任する必要があります。
この点,代表取締役が登記申請を委任したのに,後から,取締役を選任した株主総会の無効が確認されたケースがあります。そうすると,代表取締役も,法的には当初から代表取締役ではなかった,つまり,代表権がなかったことになります。
仮に売買による所有権移転登記が実行された後でも,無効な登記となります。表見代理が成立すれば救済的に登記は有効となりますが,一般的には表見代理が成立することは少ないです。
結局,売買による移転登記より前の役員の変更の不正をどのように見抜くかということが重要となります。確実に見抜く方法はありません。敢えていえば,直前で役員全員が入れ替わっている場合は,一般論として,支配権争いの状況の中で不正な登記がなされたということもありえます。
<不正な役員総入れ替え登記後の虚偽の不動産売買>
あ 役員変更登記
A社の登記上,役員の全員が変更となっていた
い 売買による移転登記
『あ』の登記の約1か月後に
売主A社と買主Bの売買による所有権移転登記を申請し,実行された
う 売買の登記の抹消
その後,訴訟においてA社の株主総会の決議不存在が認容された
→『い』の売買契約を締結した代表取締役の代表権がないことになった
→Bの所有権移転登記の抹消登記請求が認容された
3 不正な移転登記の後の虚偽の移転登記
登記義務者(所有者)になりすますことで虚偽の登記(取引)を行うという事故はよく生じています。
中には,虚偽であることを発覚しにくくするために,いったん,不正な登記を行って,虚偽ではあるけれど登記には間違いなく記録されている状態を作る手法もあります。
つまり,真の所有者Aから,犯人Bへの移転登記を終わらせてしまうのです。その上で,犯人Bが第三者(被害者)への売却をして移転登記を行うということです。
準備段階のAからBへの移転登記の際には,住所の変更(転居届)が使われることが多いです。
被害者Cの立場(BからCへの移転登記)では,1つ前の所有者の時点で登記名義人表示変更登記がなされていることがヒントになります。しかし,通常の不動産取引でも,売買による所有権移転と,その前の住所変更(登記名義人表示変更登記)が連件でなされることが多いです。
やはり,1つ前の移転登記の不正を見抜く確実な方法はありません。
<不正な移転登記の後の虚偽の移転登記>
あ 不正な転居届と印鑑登録
不動産所有者Aの住所について
Aに無断で,Bが転居届を提出した
BがAになりすまして,新たな住所の役所に印鑑登録をして,印鑑証明書の発行を受けた
い 不正な移転登記
『あ』の印鑑証明書を使ってAからBへの所有権移転登記の申請をした
(その後,Bは,Aの元の(真正な)住所への転居届を提出した)
う 形式的に真正な移転登記
BがCへ不動産を売却し,移転登記を申請し,実行された
え 登記の抹消
その後,Aから(B)・Cへの抹消登記請求が認容された
お 事前通知の前住所への送付の趣旨(参考)
以上のようなケースでは,現在の住所地への送付では真の所有者が受領しない
→不動産登記法23条2項で前住所に事前通知を送付する趣旨である
※大崎晴由著『司法書士・法務アシスト読本 第5版』民事法研究会2005年p315
本記事では,形式的には真正だけど不正(虚偽)である登記を悪用した,不正な不動産取引(登記)について説明しました。なりすましなどによる通常の不正な不動産登記とは違って見抜くのが難しいケースです。
実際には,登記を戻すこと(抹消登記請求)や,司法書士その他の関係者の責任など,多くのことが同時に問題となり,法的扱いは複雑になります。
実際に不正な登記(司法書士の責任)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。