【弁護士の契約締結現場への立会業務の内容(不明確な場合と合意ありの場合)】
1 弁護士の契約締結現場への立会業務の内容
2 一般用語としての『立会人』の意味(役割)
3 弁護士の契約締結現場への立会業務の内容(原則)
4 弁護士の契約締結現場への立会業務の内容(合意あり)
5 依頼内容による注意義務の違い(一般論)
1 弁護士の契約締結現場への立会業務の内容
弁護士が交渉や契約締結の現場に立ち会うことがあります。
このような立会の業務の内容,つまり,どこまで責任を負うのか,ということが問題となることがあります。
本記事では,弁護士の立会の業務の内容(立会の意味)について説明します。
2 一般用語としての『立会人』の意味(役割)
まず,ごく一般的な日本語としての『立会人』の意味(役割)は,現場の目撃証人となるというものです。
<一般用語としての『立会人』の意味(役割)>
契約締結の立会人の役割は,後日契約締結の事実を証明するための証拠となることである
※東京地裁昭和60年9月25日
詳しくはこちら|不動産売買への立会をした弁護士の義務と責任(裁判例の事案)
3 弁護士の契約締結現場への立会業務の内容(原則)
次に,弁護士が業務として立ち会うことを引き受けた場合の解釈について説明します。
まず,立会業務の原則的な内容は,前記の一般的な用語と同じように,現場の目的証人となり,後日証拠(証人)となるというものです。
この点,司法書士が不動産取引の決済現場に立ち会う業務とは大きく異なります。
<弁護士の契約締結現場への立会業務の内容(原則・※1)>
あ 一般的な立会人の役割
契約が問題なく成立した事実を証明するために締結現場に同席する
い 弁護士への期待
弁護士の持つ高い社会的地位に着目し,後日契約締結過程に問題があったときに,その証言が高い価値を持つことを期待する
弁護士としての職務行為は予定されておらず,ただ契約締結過程を見守ること,さらには契約締結の当事者(依頼者の相手方当事者)にいわばにらみをきかせることが期待されている
う 司法書士の決済立会との違い
一般的な司法書士による『立会』の趣旨とは異なる
※加藤新太郎著『司法書士の専門家責任』弘文堂2013年p179
※東京地裁昭和60年9月25日(同趣旨)
詳しくはこちら|不動産売買への立会をした弁護士の義務と責任(裁判例の事案)
4 弁護士の契約締結現場への立会業務の内容(合意あり)
ところで,弁護士が業務を引き受ける(委任契約を締結する)際には,個別的に依頼の内容を取り決める(合意する)ことができます。当然ですが,依頼者と引き受ける弁護士が立会業務の具体的な内容を取り決めた(合意した)場合は,合意内容が受任業務(受任範囲)となります。
<弁護士の契約締結現場への立会業務の内容(合意あり)>
あ 依頼内容の特定なし(前提)
依頼内容が不明確である(特定されていない)場合
→一般的な立会人の役割(前記※1)が業務内容となる
い 依頼内容としての特定(合意)
不動産取引の立会において,契約の有効性について法的助言を提供するという合意(依頼内容)である場合
→合意内容が業務内容となる
この業務に関して,弁護士と司法書士とで注意義務の内容・程度に差異はない
※加藤新太郎著『司法書士の専門家責任』弘文堂2013年p180
5 依頼内容による注意義務の違い(一般論)
以上のように,弁護士の立会業務については,一般的な内容を原則として,合意で特定した場合を例外とするような整理がなされています。
しかし,もともと弁護士が依頼を引き受ける際には,依頼者と弁護士で認識が異なることを防ぐべきです。認識の違いがあると,後からトラブルとなります。弁護士は紛争を解決するのが使命なので,自らトラブルを作ることは特に予防することを求められているのです。そこで,弁護士職務基本規程でも,委任契約書の作成が義務付けられています。なお,司法書士も同様のルールがあります。
いずれにしても,『合意内容が分からない場合にどうするか』ということを考える時点で受任プロセスに問題があると思います。
<依頼内容による注意義務の違い(一般論)>
あ 依頼内容による注意義務の違い
依頼の趣旨(合意の趣旨)がどのようなものであるかによって,求められる注意義務の内容や低度が異なる
弁護士・司法書士で共通する
※加藤新太郎著『司法書士の専門家責任』弘文堂2013年p179
い 依頼内容の特定の必要性
依頼内容・範囲を趣旨(合理的意思解釈)で特定すること自体が好ましくない
弁護士は委任契約書作成が義務付けられている
※弁護士職務基本規程30条(委任契約書の作成)
司法書士は依頼の内容・範囲の明確化が義務付けられている
※司法書士倫理19条(依頼の内容・範囲の明確化)
本記事では,弁護士の立会業務の内容(立会の意味)について説明しました。
実際には,個別的な事情や状況と,その主張・立証のやり方次第で判断は違ってきます。
実際に弁護士の立会業務に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。