【不動産売買への立会をした弁護士の義務と責任(裁判例の事案)】

1 不動産売買への立会をした弁護士の義務と責任(裁判例の事案)
2 当事者・取引と弁護士への立会の依頼
3 弁護士による業務の遂行と事故発生
4 立会業務の内容と弁護士の責任(裁判所の判断)

1 不動産売買への立会をした弁護士の義務と責任(裁判例の事案)

弁護士が不動産の売買契約に関して立会業務を行うことはよくあります。
その後に,売買契約に問題が生じた場合,立会業務を行った弁護士の責任が生じることもあります。
本記事では,実際に立会業務を行った弁護士の責任が判断された裁判例を紹介します。

2 当事者・取引と弁護士への立会の依頼

まず,この事案の内容を説明します。
当事者がちょっと複雑ですが,要するに,不動産の買主側が弁護士に,売買契約への立会を依頼したのです。

<当事者・取引と弁護士への立会の依頼>

あ 主な当事者

早稲田村建設実行委員会(W委員会)
委員長=Y1(Z社の代表取締役)
委員=A・B
仲介業者=Y3

い 弁護士への法律相談と依頼

Bは弁護士Y2に法律相談をした
Zが不動産を買い取り,その後転売することにした
不動産の買主側のBが,弁護士Yに『う』の依頼をした

う 依頼内容

ア 占有者(建物居住者)との間の即決和解の申請手続イ 売買契約への立会 ※東京地裁昭和60年9月25日

3 弁護士による業務の遂行と事故発生

弁護士が契約締結の現場に立ち会い,売買契約の締結が行われ,その後,所有権移転登記も実行されました。
ここまでは問題ないのですが,ここで,真の所有者が契約締結に関与していないことが発覚しました。結果的に,所有権移転登記を抹消することになりました。
買主は代金を払ったのに,所有権を得られない状態になったのです。

<弁護士による業務の遂行と事故発生>

あ 業務の遂行の状況

所有者甲は入院している
甲の娘乙の夫婦が本件建物に居住している
乙は,『甲はすべて乙に任せてある』と説明していた
甲からZ,ZからXへの売買による所有権移転登記がなされた
弁護士による代理申請ではない

い 事故発生と損害賠償請求

後から,甲が関与していないことから,Zへの移転登記が無効となった(裁判所の勧告による和解)
買主が,弁護士Yに対する損害賠償請求訴訟を提起した
※東京地裁昭和60年9月25日

4 立会業務の内容と弁護士の責任(裁判所の判断)

前記のように,買主は大きな損失を受けました。これに関して,契約に立ち会った弁護士の責任について,裁判所が判断します。
問題は,弁護士が引き受けた立会業務の内容が何か,という解釈です。裁判所は,後日証拠になること,つまり,現場の目撃証人になることである(にすぎない)と判断しました。
そこで,後日,契約締結の状況に法的な問題があったことが発覚しても,立ち会った弁護士に法的責任は生じない,ということになりました。

<立会業務の内容と弁護士の責任(裁判所の判断)>

あ 立会人の役割

契約締結の立会人の役割は,後日契約締結の事実を証明するための証拠となることである
立会人が弁護士であっても,立会人としての本質に変わりはない
契約当事者の代理人や仲介人とは異なる

い 立会業務の内容

契約の相手方当事者との交渉や,契約の目的である権利関係の帰属・内容,契約当事者の権限の有無などを自ら調査する義務はない
付随的に,契約内容につき法律上の観点から適切な指導,助言をすることが『期待』される

う 弁護士の責任

弁護士Yは,不法行為による損害賠償責任を負わない
※東京地裁昭和60年9月25日

本記事では,契約締結に立ち会った弁護士の責任が判断された裁判例について説明しました。
実際には,個別的な事情や状況と,その主張・立証のやり方次第で判断は違ってきます。
実際に弁護士の立会業務に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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