【司法書士が資料の確認によって偽造やなりすましを見抜く方法(調査の内容)】
1 司法書士が資料の確認によって偽造やなりすましを見抜く方法
2 登記済証の住所・所在地
3 登記済証の登記済印
4 登記済証の登録免許税額
5 印鑑証明書
6 自動車運転免許証
1 司法書士が資料の確認によって偽造やなりすましを見抜く方法
不動産の登記申請に関して,決済の立会を行う司法書士は,常になりすましに騙される(利用される)リスクに直面しています。
そこで,一定の範囲で確認や調査をする義務を課せられており,結果的になりすましを見抜けなかった場合には,確認や調査義務の違反として法的責任が生じることがあります。
詳しくはこちら|不動産登記申請を行う司法書士の確認義務の枠組み(疑念性判断モデル)
司法書士としては,このような責任を回避すべきです。というより,虚偽の登記がなされることを未然に防ぐという専門家としての社会的使命を負っています。
多くの登記事故(における司法書士の責任の判断)の実例から,これに着目すれば不正や虚偽を見抜けたはずだということが分かっています。
本記事では,調査方法のうち,資料(書面)を確認するものについて,実例を元にして,具体的な調査の内容,つまりどのようにして偽造(不正)を見抜くのかということを説明します。
2 登記済証の住所・所在地
まず,なりすましなどの不正な登記を行おうとする者は登記済証を偽造することが大きなミッションとなっています。
逆に,登記済証に偽造の痕跡が残っているケースは多いです。登記済証に残る偽造の痕跡のうち,住所や不動産の所在地に関するものをまとめます。
<登記済証の住所・所在地>
あ 住所
作成時点以降の住居表示変更後の住所が記載されていた
※東京地裁平成9年9月9日(責任あり)
登記済証に記載されている登記権利者の住所が現存しないものであった
※大阪地裁昭和62年2月26日(責任あり)
い 不動産の所在地
登記済証の土地の所在と登記上の所在との不一致
※東京地裁平成元年9月25日(責任なし)
3 登記済証の登記済印
登記済証のうち登記済の印(印影)が,真正なものと違うということもよくあります。
<登記済証の登記済印>
あ 庁名(官公署)
抵当権の登記済印が通常あり得ない官公署のものであった
※大阪地裁昭和62年2月26日(責任あり)
登記済印の庁名・庁印が当時は存在しなかったものであった
(『神戸地方法務局西宮出張所』)
※大阪高裁昭和54年9月26日(責任なし)
い 7桁コードの記載
登記済印の下部に7桁のコードが記載されていなかった
(東京法務局管内の登記所では,平成8年12月以降)
※東京地裁平成13年5月10日(責任あり)
う 多角文字による年数表記
登記済印の箇所の年の表記が『平成壱壱年』であった
(真正=『平成壱拾年』)
※東京地裁平成13年5月10日(責任あり)
え インクの種類・字体
登記済印の押印に朱肉印ではなくスタンプ印が使われていた
登記済印の字体が少し違っていた
※東京高裁平成17年9月14日(責任なし)
4 登記済証の登録免許税額
登記済証が,申請書副本を元に作られている場合,登録免許税も印字されています。偽造した者が,税額の計算の部分でミスをすることもあります。
<登記済証の登録免許税額>
登録免許税の価額の表示が誤っていた
※大阪地裁昭和62年2月26日
5 印鑑証明書
なりすましによって不正な登記をしようとすると,印鑑証明書を偽造する必要もあります。逆に,司法書士にとっては,印鑑証明書をよく観察することで真正なものではないことが分かることもあります。
<印鑑証明書>
あ 定型的印刷文字
末尾部に記載された『この用紙に横浜市章のすかし・・・が入っていないものはコピーです。』という文字が,真正のものに比べて大きく,一部がこすれて不鮮明になっていた
※東京高裁平成17年9月14日(責任なし)
い 透かし
印鑑証明書の透かしがなかった
※東京高裁平成17年9月14日(責任なし)
6 自動車運転免許証
司法書士の当事者や申請意思の確認のプロセスで運転免許証を確認することは有用です。実際に,運転免許証を偽造してなりすますケースが多いです。
運転免許証を偽造すると,よほど精巧に作らない限り,細かい痕跡が残ります。
<自動車運転免許証>
あ 厚さ
厚い
い 文字の誤記
文字の誤記((氏名の)藏と蔵)
う 字体(大きさ)
文字の大きさが異なる
え 写真の輪郭
写真の輪郭が不自然である
お 顔写真と本人の顔の照合
本人の顔と似ていない(照らし合わせの結果)
か 検査の方法
ケースから取り出すことは必須である
本記事では,不動産登記申請を行う司法書士が,資料の確認によって本人かどうかを確認する具体的方法を説明しました。
実際には,極めて精巧な偽造で騙すケースもあります。個別的な細かい事情や,主張・立証のやり方次第で責任の判断は違ってきます。
実際に不正な登記(司法書士の責任)の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。